冷たいキスなら許さない
私が気軽に声をかけていい相手じゃないことはわかっていたけれど、ここまでだとは。
西倉社長退任劇の裏に新発田社長がいるのは間違いない。
私のせいで余分なことをさせてしまった感はどうにもぬぐうことができない。
それにこの一件で『ニシクラ』の従業員、子会社や取引先の人たちにも迷惑がかかったんじゃないだろうか。

「いろいろ気になるかもしれないね。だけど、さっきも言った通り、持ってるカードを最善のタイミングで切っただけなんだ。
これまでは、できれば自社内で解決するのがいいと思っていたから様子を見ていた。そんな時に灯里ちゃんから相談があったってだけで、いつカードを切るかは時間の問題だったんだ。
このままにしていたらもっと腐敗が進んであの会社自体が無くなって従業員が路頭に迷う結果になっていたかもしれないと考えた方がいい。だから灯里ちゃんが気に病む必要はないから」

穏やかにでも力強く私の心を撫でるように新発田社長は話してくれた。

「仲人が当分先になるのなら、次の渓流釣りの時に灯里ちゃんが手作り弁当を準備してくれればいいよ。それでしばらく猶予期間をあげよう」
鼻歌が出そうなほど楽し気に、卵焼きは甘いのがいいとかおにぎりの具は梅干しは嫌だとか、私の気持ちを持ち上げてくれた。

よし、次回の釣りの時は早起きして豪華なお弁当作りだと決意をしたのだ。


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