冷たいキスなら許さない
「会いたかった」
一度軽く離された唇はすぐにまた塞がれた。

会いたかったの言葉にじんっときて私の手も社長の背中に回してしまう。
ここがどこでもどうでもいい。
私も会いたかったのだから。

背後でヒュウーっと口笛を吹かれて我に返りパチッと目を開けると、社長の唇が離れていくところだった。

あちこちから感じる視線にかぁーっと顔が熱くなる。
あの金髪碧眼男もいなくなっていた。
と、とんでもないことをしちゃった。

周囲の視線を避けるように俯いて「帰りましょ」と大和社長の腕を軽く引っ張ると、
「迎え、サンキューな」と上機嫌な声と共に頬にキスがきた。

ひ、ひいっと声にならない悲鳴が漏れた。
どうしたの、コレなに?何でこんなに甘いの?
カナダで何か悪いものでも食べたの?
涙目になって背の高い社長の顔を見上げればさっきの黒い笑顔が薄らいでいた。

私の手をしっかりと握って「行くぞ」と反対の手でスーツケースを転がし駐車場に向かって歩き出した。

ぎゅっと握られた手を見つめてしまう。これが恋人の距離なんだろうか。

「社長」
スタスタと歩く社長に声をかけるけれど、返事がない。

「社長ってば」
もう一度声をかけたけれどやはり返事はもらえない。代わりに冷めたような視線が戻ってくる。
さっきまでの上機嫌が嘘みたいに急降下しているんですけど?!
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