冷たいキスなら許さない
受話器を戻して下北さんをと見ると、あちらもずっと私の様子をうかがっていたことがわかる。

「ビジネスランチなんだからゆっくり時間を取ればいいさ。灯里さん今日の午後に外回りの予定はなかったでしょう」

毎週月曜日は外回りの予定を入れていない。
ほとんどの土日に長野に呼び出されているからだ。時には月曜の朝に長野の会社に顔を出してから出社することもあって、私の勤務時間は不規則になっている。だから月曜日には予定を入れないようにしていた。

「はい。じゃ行ってきます」
余分なことは言わないで席を立った。
うすうす下北さんはこれがビジネスじゃないとわかっているだろう。何も言わないでいてくれるから私も何も言うまいと思った。

化粧室に寄ってメイクを直した。マスカラを丁寧に塗りなおし鏡の中の自分に問いかける。
4年前と私はどこが違う?

・・・鏡の中の自分からは返事がなかった。

全く気乗りがしないけれど、それでも少しでもきれいに見せたい。
捨てなければよかったと思われようなどど図々しいことは考えてないけれど、こんな女捨てて良かったと思われるのは癪だ。

< 47 / 347 >

この作品をシェア

pagetop