冷たいキスなら許さない


ーーー何、ここ。

櫂から指定されてたどり着いたお店は小さく看板が出ている上品な和風建築の料亭だった。

駐車場に入るとすぐに和服の女性が現れて私を案内してくれた。
「いらっしゃいませ、本木様。お連れ様はお部屋でお待ちでございます。こちらにどうぞ」

驚いている暇もなくあれよあれよと個室に連行されていて気が付くと目の前には櫂がいた。
全く躊躇する暇を与えてもらえずこのざまだ。

「ありがとう。来てくれてうれしいよ。さあ座って」
座椅子を引いて待っている仲居さんのためには席に着かないといけないらしい。

流されるままにここに座ってしまったけれど、これも全て櫂の計算通りなんだろう。

ふすまが閉められ櫂と二人きりになる。

櫂の視線を避けて
「呼び出した理由を言ってちょうだい」
と切り出した。

「灯里が逃げるから」

そう返事が返ってきた。

何言ってんだ、この男。
思わず顔を上げてきっと睨みつける。
女が別れた男と会ってもいいと思うのは普通円満に別れた場合なんだと思うけど。

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