冷たいキスなら許さない
「やっと顔を見てくれた」

睨みつけている私に櫂は笑顔を見せた。

そこにいるのは私が過去に愛した男。
その笑顔が好きだった。少し薄い唇が笑うと横に伸びて妙にセクシーだった。
そして、ーーー私を冷たく捨てた男。

あの日に見た櫂の冷たい目を忘れることができない。
いまさら会ってどうなるというんだろう。

「ご用件は?」

「灯里に会いたかったってことじゃだめか?」

「ダメでしょ」

「即答だな」

「当たり前でしょ。あなた4年前に私に何て言ったか忘れてるようだけど、私は一生忘れない。あなたのこと好きだった過去を捨てたいの。今日は脅しに負けてこうして来たけれど、もう会わない。
私たちの関係を誰かに言いたければどうぞ。別に不倫関係だったわけじゃないし。言われて困る相手もいない」

私の責める言い方に櫂は笑みを引っ込めた。
二人の間に沈黙が流れる。

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