冷たいキスなら許さない
「妻なんかいない」

予想外の言葉に首をかしげた。

「もうとっくに結婚したのだと思ってた」

あれから4年もたっているのにまだ婚約したままなはずはない。
離婚したのか、婚約中に別れたのか。

「ごめんなさい、私には関係なかった。忘れて」
視線をお膳に戻して最後のひとくちを口に運んだ。

「灯里は結婚したの?指輪ははめていないようだけど」
探るような目で手元が見られていた。

それこそあなたに関係ない。
そう言おうと思った途端に今度はデザートが運ばれてきた。

ここ、隠しカメラでも付いているんじゃないだろうか。不安になってそっと辺りを窺っていたら
「そんなものはないよ」
櫂がくくっと笑った。

私の思考が読まれていたことに少しムッとする。
怒りに任せて黙ってデザートを食べていたら、女将が挨拶に現れた。



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