冷たいキスなら許さない
「料理はいかがでしたか?」
笑顔の女将に向かい
「とても美味しく頂きました。特に筍の焼き物と鯛のお椀には感動しました。ごちそうさまでした。
それと・・・板長さんのお嬢さまのことお悔やみ申し上げます」
そう言って頭を下げると、女将が怪訝そうな顔をした。

「お嬢さま?」
女将が首をかしげたところで気が付いた。

サッと櫂の顔を見ると、片頬がピクリと上がり気まずそうに視線がそらされた。

やられた。
櫂に騙された。

「櫂さん」女将が櫂に向き直った。
「あまり質の良い冗談ではありませんね」

知り合いらしい二人のやり取り。それは親が子供を厳しく叱るようなものではなく、祖母が孫を叱るといった類の静かなお説教のようだった。
祖母というには失礼なほどの年齢の女将で母のような年齢の女性だけれど。
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