冷たいキスなら許さない
「ここよ、これ!」
女性のネイルしたきれいな指先が示す先には広場を歩くピンク色の傘で相々傘する男女の姿が小さく写っている。
傘に隠れて顔はよく見えず、ただ二人並んで歩いているだけに見える。
個人が特定されるようなものではない。

私が無言でじっと見ていることに気が付いた女性の怒りのギアが上がった。

「ちょっと!この傘はね特別なの!職人の手作りでイタリアで主人が私のために買ってきたものなの。だからこれを主人が見たら私がここに居たってバレてしまうでしょ!そんなことになったらどうしてくれるのよ」

ここに居ては不都合な何かがあるってこと。

いつ誰といたか、ということなんだろうけど。

写真には相々傘をしている男女の姿が写っている。顔ははっきりしないもののこの奥さんとそのご主人から見たら傘は明らかにこの奥さんのもので。
一緒にいたのはおそらく旦那さんには知られたくない相手。・・・不倫とか?

女性はムッとしながら無言で私をにらんでいる。

ーー当たりか。

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