冷たいキスなら許さない
「佐々木さん、とにかくこれ今すぐ削除して」

「いや、下手に削除しない方がいい」

私の声に返事をしたのは佐々木さんじゃなかった。
ーーー櫂。

櫂が開けっ放しになっていた玄関から入ってきて私のすぐ後ろに立っていた。
「あなたどうしてここへ?」

「灯里、その話はあとで」
いきなり入ってきた男に驚いたのは私だけじゃなかったはずだけど、
「ええっと、奥さまのご自宅はアパート、マンション、一戸建てどれでしょうか」
私を制して櫂は女性に向かって言った。

「え?分譲マンションよ」
女性も櫂の登場に驚きながらも素直に口を開いた。

「では今から何部かこの展示場のカタログをお渡しします。それを持ち帰っていただいたうえで、もしこのネット写真がご主人の目にとまってしまった場合にはーーー」

櫂はてきぱきと女性に指示をし、勢いに押されたのか女性は素直に頷いていた。
・・・・




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