冷たいキスなら許さない
「そうだな。わかってる、悪かった。でも、灯里の連絡先は勤務先しか知らないし、もう会ってもらえないと思っていたから、つい。最悪なタイミングだな」

腹をたてている私に櫂は探るような視線を向ける。
「今からこの間灯里と行った大叔母のところに行かなきゃいけないんだ。悪いけど、大叔母の店まで灯里の車に乗せてもらえないか?車内なら人目を気にしなくてもいいし」

「あなた、車は?ここでの用事はもう済んだの?」

「いや、ここにはもしかしたらここに来れば灯里に会えるかもと思って寄ってみただけだから、この場所に用事があるわけじゃないんだ。車はここに置いていく。あとで取りに戻るから気にしないで」

何てことだろう。櫂は私に会うためにここに来たという。
まだ悪夢は終わってなかったってこと?

「櫂、私たちはずいぶん前に別れたんだよ。今更謝ってもらわなくていい」

途端に
”風船もらったね”
”ウサギさんのシールとぬりえももらったよー”
離れたところから徐々に近づいてくる親子連れらしき人の気配。

”また来ようね”
話し声も大きくなる。

ここに櫂といつまでもいるわけにはいかない。
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