冷たいキスなら許さない
ウインカーを出して料亭の玄関近くの一時駐車スペースに車を止めた。
昼食がとうに終わった午後の遅い時間の料亭には人の気配がない。

「はい到着」
早く降りてという思いを込めてハザードランプをつけたまま。

「ありがとう。助かったよ」
櫂はニコッと笑って私を見た。相変わらずの王子さまスマイル。
大概の女性がアレにやられる。私も昔はあれにやられたひとり。もうやられないけどね。

「俺は未来に進んでいいのかな」
「過去の謝罪が終わったんだから、私のことはもう気にしないであなたはどうぞ先に進んで。あなたの明るい未来に」

私は両手を広げて大げさにどうぞとポーズをとると「わかった」と櫂からひと言返ってきた。

ビジネスバッグを持って車のドアを開けると
「これ返す。前回のは俺のおごり。またな、灯里」そう言って座っていた助手席のシートの上に一万円札を置くと、バタンとドアを閉めてしまった。
「ちょっと」声を上げた時にはもう櫂は後ろ手に手を振りながら料亭の門をくぐろうとしていた。

「もう」一瞬のうちに置かれた一万円札を手に取ると、一緒に名刺がくっついている。
そこにはご丁寧に手書きの携帯番号とメアドが。

こんなものいらないし。
二度と会いたくない。
事務所に戻ったらシュレッダーに直行!フンっと鼻を鳴らして車を出した。

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