冷たいキスなら許さない
「あのイースト設計の男が関係してないか?」
社長が横目で私をうかがうように見つめる。

「もちろんもう会いたくはないですね。姿を見なくてもイースト設計の名前を聞いただけでじくじくと古傷が痛むっていうか・・・ね。
でも仕事とプライベートは別物ですし。イースト設計との仕事が決まっても、別に私の出番はないでしょう?
だから、会社のためにこの仕事受けるべきです。受けて下さいね」

社長のグラスにビールを注いで自分もごくごくと飲み込んだ。
「灯里がそれでいいというなら受けるけど、無理することはないぞ」

「大丈夫。たぶんね」
私はねぎま串を口にくわえた。
たぶん、大丈夫。
イースト設計の仕事を受けても、私の出番はないはず。

「そんな事よりも、あれ社長のベッドじゃなかったんですか?」

今日一日がかりで作ったセミダブルベッド。
工房に行くとすでに何割か作成してあった。
完成したそれを社長の部屋に運び込むのかと思ったら違った。

若い大工見習の男の子に手伝ってもらって運んだ先は、社長の家の客間の一つだったから。
社長の軋むベッドはちょっと手を加えただけで軋みは改善された。でも使い続けたらまたギシギシすると思うんだけど。
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