千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
足取りも軽く屋敷に戻った良夜は、百鬼夜行に出ようとしていた父と庭で出くわして顔をしかめられた。


「お前…なんだその緩み切った顔は」


「ああ、その件だが…相談役の女に会いに行ってきた。近いうち顔を出しに行くと確約を取り付けてきた」


「そうか、それは良しとして…緩み切った顔の説明をしていないようだが?」


百鬼たちはすでに庭に集まってひしめき合っていたが、良夜は悠長に縁側に腰かけて父の袖を引っ張って座らせた。


「いい女だった」


「ほう?それででれでれしながら戻って来たということか?」


「色々質問してみたんだが、ほとんど答えてくれなかったんだ。で、躍起になってずっと質問していた。その間やっぱりいい女だった。酒を持ち込んで持久戦に持ち込んだんだが、それを全て飲まれてしまった。全く酔っていなかったが、酔うときっともっといい女になる」


「つまり…惚れたということか?」


そう問われて一瞬きょとんとした良夜は、眉間に皺を寄せて腕を組んだ。


「いや…分からない。だけど今まで出会ってきた女とは明らかに違う。絶対に違う。こう…胸が…なんか…」


ふうん、と相槌を打った父は、それが恋なんじゃないかと言いかけてやめた。

良夜が産まれて今までずっとどこか達観していた我が子が言葉に詰まるのは珍しく、だからこそ父もまたにやにやが止まらなくなってしまった。


「なんだ親父。その顔やめろ」


「青い。青いなあ」


「青い?俺が?どこが?具体的に言…」


「さあ、そろそろ行って来よう。良夜、ふたりの母と屋敷を頼んだぞ」


答えを得られず憮然としたが、頷いた。


明日また会いに行くためこれから布施代わりに頼まれた食材を集めなければならない。

うきうきしながら台所に向かった。
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