千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
良夜の顔はどちらかと言えば柔和で中性的な印象のある美貌だ。

だがいざ刀を振ると歴代の当主を凌ぐ実力を有しており、良夜の父はすぐにでも代替わりができるように着々と準備を進めていた。


「親父、美月の所に行ってくる」


「たいそうな食材の量だが、女ひとりで食えるものか?」


「俺も一緒に食う」


普段、酒を飲むことはあっても人のように食事をすることのない良夜が急にそう言ったため、父は咎めこそしなかったものの、それに言及した。


「お前も一緒にか?」


「ひとりで食っても美味くないだろう?だから俺も一緒に食ってやるんだ」


じゃあな、と父に声をかけて大量の食材を積み込んだ牛車と共にいそいそ出かけていった良夜を見送った父、にやり。


「相当な美女なんだろうな」


「…主さま」


背後からひやりとする声をかけたのは良夜の実母で、父は飛び上がって頬をかいた。


「想像位いいじゃないか。あれが気にかけている女だぞ。見てみたくはないか?」


「…あの子は女遊びが激しいですから心配です」


「何かを見つけるために女遊びをして捜している、とも言えるかもしれん。まあ様子を見てみよう」


――父や母にそう噂話をされていることもつゆ知らずの良夜は、急な坂を上がって神社に着くと、何かが潜んでいる泉を横目に見ながら境内を歩いて扉の前で腰に手をあてて仁王立ち。


「来たぞ。出て来い」


「偉そうに…」


中から出て来た美月は、牛車の御簾を上げて詰め込まれてあった食材を見ると、目を丸くした。


「何やら高級そうですが…」


「俺も食うんだから、高級なものしか用意してない。さあ、早速作ってもらおうか」


「はあ?私が…お主の分まで?」


「もちろん。味付けは任せる」


勝手に室内に上がり込んで寛ぎ始めた良夜に呆れ顔の美月。


「お主と親しくするつもりはないのですが」


「親しくするかどうかは俺が決める。ほら、早く作ってくれ」


唖然茫然。

美月の口があんぐり開いたのを見た良夜は、してやったりと言わんばかりにごろんと横になってにやにやして美月に怒られた。
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