千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
普段ひとり分の食事しか作る機会のない美月は、境内の最奥に作られた小さな建屋にそれを運び込んでくれと願い出た。

そこは美月の住処であり、小さいながらも台所がある。

ただこんなに多くの食材は使いきれないし腐らせてしまうかもしれないため、保存できるものは漬物など保存食にして後から食べようとほくほくしながら食材を良夜と一緒に運び込んでいた。


「こんなに沢山は食べきれません。できれば小分けにして持ってきて頂きたいのですが」


「それはつまり俺に毎日通ってほしいという解釈でいいんだな?」


「いいえ全く違います。ここに来る機会があれば、という意味合いです」


「素直じゃない女だ。ここがお前の住処か?狭いな。これじゃ俺の部屋よりかなり狭い」


「私だけが住むにはちょうどいいんです。…お主のような高貴な者をお招きするべき場所ではないので、早くお宮の方へ戻って下さい」


「いや、ここでいい。床はこの押入れの中か?…かび臭いな。新しい掛布団を明日運ばせる」


勝手にあちこち襖を開けて見分し始めて慌てた美月は押入れの中に押し込めてあった床を見られて顔を赤くしながら立ち塞がった。


「ちょ…っ、やめて下さい!」


「質素な暮らしをしているのは分かるが、これじゃ体調を崩す。いいか、これは俺の勝手だからお前がどうこう言っても曲げるつもりはない」


「……ありがとうございます…」


「ん。さあ、食材を使いきれないなら今大量に料理を作れ。俺が全部食べてやる」


「ですが…相当な量ですけど」


「食べきれなかったら狼に分けてやる。まあそんな心配もないだろうな、俺はこう見えて結構食えるはずだ」


「食えるはずだって…」


ついふっと笑った美月は、その笑みを良夜に見られて慌てて表情を引き締めて台所に立った。


「腹が破裂するまで食べてもらいますからね」


「上等だ。寛いでいるからゆっくり作っていいぞ」


ごろりと横になって台所に立つ美月の細い背中を視線で撫でながら待っていた。

その待つ時間が想像以上に楽しくて、飽くことなく見つめ続けていた。
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