千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
「そうか。それで?」
「それでって…美月は相談役だから手を出すなとかどうとか言ってたじゃないか」
「言ったが、反対したらお前はどうするつもりだった?」
「…駆け落ち…とか」
「ほう、それは我が家の血が絶えるということだな。…初代が願い、我ら子孫が受け継いできた百鬼夜行が途絶える、と」
そう言われると思っていたけれど、現実を冷静に突きつけられた良夜は唇を噛み締めて俯いた。
「美月とは…離れられない。絶対に傍に居て欲しいんだ」
「例えばの話だが、お前が家柄の良い娘を妻に娶るとする。ふたり目も同じだ。美月殿は相談役の立場故表向き手を出してはならぬ存在。…では裏向き的にはどうだ?」
「裏向き…まさか…妾にでもしろと?」
思わず声色が低くなり、語気が荒くなった良夜は、ぎっと目を上げて父を睨んだ。
美月を妾になど望んではいない。
正式に妻として迎えたいのに、と表情で訴えた良夜は、父が苦笑したのを見て何とか殺気を抑え込んだ。
「明」
「…」
「美月殿を相談役から下ろす」
「…え?」
「就任して間もないが、下ろすならば今しかない。後任役は俺が決めよう」
――まさかこうもあっけらかんと一見無謀にも思える願いを叶えてくれるとは思っていなかった良夜が目を丸くすると、父は伏し目がちになって盃の中で揺れている酒の波紋を見つめた。
「明、お前は運命を信じるか?」
「…信じる。美月は俺の運命の女だ」
「そうか、ならばよし。で?昔から言っていたが、妻はひとりでいいんだな?」
「ああ。…それも受け入れてもらえるのか?」
「お前は明日我が運命を目の当たりにするだろう。…父も母たちも、今までお前の幸せだけを願ってきた。それを忘れるな」
ふたりで月夜をまた見上げていると、膝に乗せていた天叢雲がぼそりと呟いた。
『嗚呼、良い月夜だ』
月明りを浴びて、嬉しそうに笑った。
「それでって…美月は相談役だから手を出すなとかどうとか言ってたじゃないか」
「言ったが、反対したらお前はどうするつもりだった?」
「…駆け落ち…とか」
「ほう、それは我が家の血が絶えるということだな。…初代が願い、我ら子孫が受け継いできた百鬼夜行が途絶える、と」
そう言われると思っていたけれど、現実を冷静に突きつけられた良夜は唇を噛み締めて俯いた。
「美月とは…離れられない。絶対に傍に居て欲しいんだ」
「例えばの話だが、お前が家柄の良い娘を妻に娶るとする。ふたり目も同じだ。美月殿は相談役の立場故表向き手を出してはならぬ存在。…では裏向き的にはどうだ?」
「裏向き…まさか…妾にでもしろと?」
思わず声色が低くなり、語気が荒くなった良夜は、ぎっと目を上げて父を睨んだ。
美月を妾になど望んではいない。
正式に妻として迎えたいのに、と表情で訴えた良夜は、父が苦笑したのを見て何とか殺気を抑え込んだ。
「明」
「…」
「美月殿を相談役から下ろす」
「…え?」
「就任して間もないが、下ろすならば今しかない。後任役は俺が決めよう」
――まさかこうもあっけらかんと一見無謀にも思える願いを叶えてくれるとは思っていなかった良夜が目を丸くすると、父は伏し目がちになって盃の中で揺れている酒の波紋を見つめた。
「明、お前は運命を信じるか?」
「…信じる。美月は俺の運命の女だ」
「そうか、ならばよし。で?昔から言っていたが、妻はひとりでいいんだな?」
「ああ。…それも受け入れてもらえるのか?」
「お前は明日我が運命を目の当たりにするだろう。…父も母たちも、今までお前の幸せだけを願ってきた。それを忘れるな」
ふたりで月夜をまた見上げていると、膝に乗せていた天叢雲がぼそりと呟いた。
『嗚呼、良い月夜だ』
月明りを浴びて、嬉しそうに笑った。