千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
その日は明け方まで両親たちにあれこれ世話を焼かれてますます訳が分からなかった。

母たちの作ってくれた料理は形は不器用だが味は悪くなく、こうして皆で食卓を囲むのもいいわねと若い娘のようにはしゃいでいる母たちが可愛らしく、床についた時には心地いい気怠さですぐ寝入ってしまった。

やけに明日になれば分かると言い続けた父だったが、一体何が起こるのだろうかと思いながら短い眠りから覚めた良夜は、早く全てを解決して美月に会いたくて、欠伸をしながら縁側に出た。


「起きてきたか」


「ん。親父、今日になれば色々教えてくれるんだろう?なんなんだ?」


父の隣に座ると、父は懐に手を入れてひとつの古めかしい鍵を出した。

それは代々の当主にしか持つことが許されない蔵の鍵で、まだ当主という立場ではない良夜は差し出されたその鍵をじっと見つめた。


「親父…俺はまだ当主じゃないんだけど」


「お前が次なる当主になることは決まっている。何故ならばお前にしか継げないんだからな。…これで全てを見て知って来い」


錆ひとつついていないその鍵を受け取った良夜は、広大な庭の一番奥にある蔵の方角に目を遣った。


「蔵に行ってどうすればいいんだ?」


「すぐ分かるように机の上に置いてある。大きな葛籠だ。その中に全てが入っている。あの蔵の中には代々の当主たちが書き記してきた書物や神器とも呼べるものが様々あるが、真っ先に見るべきものがその机の上に置いてある葛籠だ」


「分かった。じゃあ親父、行って来る」


「…明、ちょっと待ってくれ」


え、と顔を上げた良夜は、父にふわりと抱きしめられて驚きのあまり固まった。

そして母たちも同じように良夜を取り囲むようにして抱きしめると、母たちは涙声で詰まりながら何度も何度も、同じ言葉を繰り返した。


「私たちの可愛い明…私たちはいつまでもあなたを愛していますからね…」


――そんなことは分かっているけれど、何故かその言葉が深く胸に沁みて、良夜も何かがこみ上げてきそうなのを抑えながら、何度も頷いた。


「うん…うん、ありがとう…母さんたち」


繰り返しそう言って、背中を撫でてやった。
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