千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
蔵の前まで来た良夜は、そこで振り返って狼の鼻を撫でた。
「ここは俺しか入れないからお前は戻ってていいぞ」
「じゃあここで待ってる。何するか知んねえけど頑張ってな」
手を振って別れた後、良夜は錠前の鍵を開けてはじめて蔵の中に入った。
中は暗く、手前にあった蝋燭に火をつけて翳しながら辺りを見回すと、本棚がびっしり並べられていて、数多くの葛籠や書物が整然と並べられていた。
「これが…当主たちの持ち物や書物か」
葛籠のひとつひとつには何代目であるかと真名が書かれてあり、読み物が嫌いではない良夜はしばらくはここで過ごすことができるなとほくほくしながら奥へ進んだ。
蔵の一角には何畳か畳が敷かれてあり、そこに大きめのいくつかの光を取るための行灯と大きな机があった。
そしてその葛籠の前に座った良夜は――葛籠に貼られてある紙を見て、愕然となった。
「初代……黎…明……?」
ずきん、と頭が痛んだ。
額を押さえて歯を食いしばって痛みに耐えていたが一向に良くはならず、天叢雲が言っていた言葉を思い出した。
「俺自身が…記憶に蓋をしている…」
記憶を封じているのは自身だと言われ、この頭痛を乗り越えなければきっと思い出すことはできないのだと悟った良夜は、震える手で箱を開けて中を覗き込んだ。
葛籠の中には分厚い書物と、そして布に包まれたいくつかの大きめの何かが入っていた。
その書物を手に取った良夜は――表紙に書かれてある字がとても自分の字体に似ていることに気付き、掠れる声で呟いた。
「黎明が…初代…」
血縁ではないのかと予想はしていたが、まさか初代とは――
――良夜は緊張でまた手が震えそうになりながら、その古めかしい書物を手にして、ぱらりと捲った。
「この書物を‟生涯支え続けてくれた我が妻澪と神羅に捧げる……”」
眼球が震えた。
身体が震えた。
耐えられない頭痛がして吐き気がして、気が狂いそうになって――絶叫した。
「う、あぁあーーっ!」
そのまま畳に倒れ伏して、昏倒した。
「ここは俺しか入れないからお前は戻ってていいぞ」
「じゃあここで待ってる。何するか知んねえけど頑張ってな」
手を振って別れた後、良夜は錠前の鍵を開けてはじめて蔵の中に入った。
中は暗く、手前にあった蝋燭に火をつけて翳しながら辺りを見回すと、本棚がびっしり並べられていて、数多くの葛籠や書物が整然と並べられていた。
「これが…当主たちの持ち物や書物か」
葛籠のひとつひとつには何代目であるかと真名が書かれてあり、読み物が嫌いではない良夜はしばらくはここで過ごすことができるなとほくほくしながら奥へ進んだ。
蔵の一角には何畳か畳が敷かれてあり、そこに大きめのいくつかの光を取るための行灯と大きな机があった。
そしてその葛籠の前に座った良夜は――葛籠に貼られてある紙を見て、愕然となった。
「初代……黎…明……?」
ずきん、と頭が痛んだ。
額を押さえて歯を食いしばって痛みに耐えていたが一向に良くはならず、天叢雲が言っていた言葉を思い出した。
「俺自身が…記憶に蓋をしている…」
記憶を封じているのは自身だと言われ、この頭痛を乗り越えなければきっと思い出すことはできないのだと悟った良夜は、震える手で箱を開けて中を覗き込んだ。
葛籠の中には分厚い書物と、そして布に包まれたいくつかの大きめの何かが入っていた。
その書物を手に取った良夜は――表紙に書かれてある字がとても自分の字体に似ていることに気付き、掠れる声で呟いた。
「黎明が…初代…」
血縁ではないのかと予想はしていたが、まさか初代とは――
――良夜は緊張でまた手が震えそうになりながら、その古めかしい書物を手にして、ぱらりと捲った。
「この書物を‟生涯支え続けてくれた我が妻澪と神羅に捧げる……”」
眼球が震えた。
身体が震えた。
耐えられない頭痛がして吐き気がして、気が狂いそうになって――絶叫した。
「う、あぁあーーっ!」
そのまま畳に倒れ伏して、昏倒した。