千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
誰かのために食事を作るのは存外楽しい作業だった。

…だが料理を作っている間ずっと良夜の視線を感じていて意識してしまったが、それでも楽しくて、小さなちゃぶ台には料理が乗り切れなくて畳の上に並べて申し訳なく思いながら頭を下げた。


「お宮だったらちゃんとおもてなしできるのですが…」


「お前の住まいで食べたかったから別に気にしなくていい。しかし美味そうだな、もう食っていいのか?」


「え、ええ…。ですが、私はともかくお主は人のように何かを食べることなどあるのですか?」


「ほとんどない。だけど食えると思う。そんな気がする」


色合い豊かな料理に目を丸くした良夜は、早速芋の煮物を口に運んでもぐもぐ。

はじめて食べた味のはずなのに、どこか以前も食べたことがあるような気がして箸が進み、美月を喜ばせた。


「美味しいですか?」


「ん、美味い。もっとないのか?」


「他にも沢山作ったので食べてみて下さい。…やっぱりひとりで食べるのとは訳が違いますね…」


美月がぼそりと零した言葉を聞き逃さなかった良夜は、次々と料理に手を伸ばして目を輝かせていた。


「鬼として生を受けたのに、人のように食うのはなんでだ?」


「さあ…。でも鬼として産まれたことに誇りと喜びは感じています。理由は…分かりません」


「理由なんてないだろう。そう宿命づけられた、というだけだ」


「そう…でしょうか?」


「他に何がある?人のように短い生を生きたかったわけじゃないだろう?」


――そう問われた美月は、ふと考えて、すぐ頷いた。


「私は鬼として産まれたかった…何故かそう思います」


「ん、それならそれでいい。俺も鬼として生を受けたことに誇りを感じている。それよりお前も冷めないうちに早く食え。美味いぞ」


良夜に急かされて箸を手にした美月は――

以前もこうして誰かとこうして料理を食べていたことがあるような気がして、首を傾げていた。
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