千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
真っ白な世界をきょろりと見回した黎は、目の前に大きな白い扉があってそれを開けようと手を伸ばした。


『待っていたぞ』


「!?お前は…なんだ…?」


いつからそこに立っていたのか、黎の背後にひとりの金髪碧眼の男が立っていた。

妖では見慣れない色合いの美しい男は目を細めて黎を頭からつま先までつっと視線で撫でると、白い外套の中で腕を組んだのが分かった。


『この前お前の妻がここを通った。まさか追いかけてきたのではないな?』


「違うが、澪はどこに行った?どこに行けば会える?ここはどこだ?お前はなんだ?」


『こいつ偉そうだな』


つんと背中を突かれて振り返ると、今度は朱い髪に赤い瞳のこれまた色合いの珍しい女が経っていて再び破顔すると、男の方が黎の肩をぽんと叩いた。


『ここは‟魂の座”に通じる扉の前だ。お前は今現世で昏倒状態にある。ここを目指していたな?』


こくんと頷いた黎は、とうとう辿り着いたのだとぞくぞくして拳を握り締めた。


「ずっとここに辿り着きたかった。俺の願いを叶えてくれるのか?」


『お前の願いはすでに知っている』


「え…?」


――金髪の男は、目を閉じてゆっくり上を仰いだ。

もちろん空などなく真っ白な空間しかなかったが、黎には…空が見えたような気がした。


『お前は幾星霜もの間課題となっていた人と妖の間を繋いだ。和平を願い、繋がらないはずの絆を繋いだ。これは誰にも成し得なかった功績だ。だからお前の願いならなんでも叶えると仰っている。だが一応願いを言ってみろ』


誰が…と言いかけた黎は、別に願いを叶えてくれるなら誰もいいかと思った。

そして自らの行いを見てくれていた者が居た――

ふっと笑った黎は、じっと見つめてくるふたりに微笑みかけた。


「じゃあ何でも叶えてもらおうか」


偉そうに腕を組んで、今度はふたりを破顔させた。
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