千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
確かに神羅は生前の頃と何ら変わっていなかった。

互いに胸が詰まってただただ見つめ合い、はじめて恋をした相手に再び恋をして、神羅の顎に手を添えて上向かせた。


「…確認していいか?」


「何を…?」


「お前が変わっていないのか確かめたい。いや別に変わっていても構わないが」


意味が分からずきょとんとしているうちに――黎の顔が斜めに近付いてきたかと思うと唇を奪われた神羅は、あの頃と変わらない口付けに幸せがこみ上げて目を閉じた。

舌が絡まって音を立てると、良夜と美月だった時にされていた口付けだったなと思い、それを忘れていた自分に腹が立った。


「黎、ちょっと、待って…っ」


「いや、もう待たない。お前が身体を拒み続けた理由は俺を待っていたからだろう?今何を躊躇する必要がある?」


「だって私!その…はじめて…だし…」


黎は目を丸くした後、また吹き出して神羅の腰を強く抱いて笑った。

その笑顔が顔は違えど生前の黎そのもので、思わず見惚れると、耳元でぼそりと呟かれた。


「今回はあの時と違って優しくする。いや、できるかな…できないな、きっと」


「待って…待って…っ、私今汗をかいてて…」


「汗なんて今からもっとかくから気にするな」


黎は一度出入り口の扉に目を遣って手を伸ばした。

すると扉が音を立てて閉まり、ついでに結界も施して誰からも邪魔されないようにすると、神羅が強く黎の胸を叩いた。


「本当に…するの?」


「しない理由があるか?俺を待っていたくせに」


「!黎…でもその…澪さんは…」


黎は神羅の耳や頬などあちこちに触れながらにこっと笑った。


「お前が心配せずとも澪は幸せにしてやれた。だから今は俺のことだけを考えて身を委ねてくれ」


黎の言葉を疑ってはいない。

こくんと頷いた神羅は、言われた通り黎に身を委ねて――二度目の純潔を捧げた。
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