千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
黎の激しさは相変わらずだった。

荒ぶっているのではなくただただ本当に愛されているという激しさは情熱であり、破瓜の痛みなど本当に一瞬で互いに息を荒げて何度も愛し合った。


「黎…っ、今度は…私、だけなのね…?」


「妻はお前ひとりと決めている。…お前はそのことで何度も胸を痛めていたからな。澪も次に転生した時は幸せになってほしいと願ってくれた。次の生は…神羅、長く共に生きてゆける」


「ああ私…そう…次は妖に転生して…黎と生きたいと願ったわ…」


神羅を抱き起した黎は、汗に濡れた身体が冷えないよう身体に羽織をかけてやりながら抱きしめた。


「たかが十数年しか共に生きれなかった。お前を失った時の俺の苦しみ…痛み…ようやく報われる…」


神羅の頬にぽとりと涙が落ちた。

病を隠した時期はとても短く、あっという間に死んでしまった自分よりも、長い生を苦しみながら生きてきた黎の方がつらかったに違いない。

きれいな顔が涙に濡れる様はとても美しく、神羅は頬に伝う涙を指で拭ってやると、何度も謝った。


「ごめんなさい…でも黎、お主が後を追わなくて良かった。それこそこうして会えなかったかも」


「澪が俺を慰めてくれた。澪が居なければきっと会えなかった」


――澪。

黎の口から同じ妻という立場にあった澪の名が出ると、ちょっとむっとしてしまって黎から離れた。


「神羅?」


「…なんでもありません」


「なんでもないという顔はしていなかったぞ。こっちを向け」


「もう確認したのでしょう?私は神羅。あの頃の私と何ら変わりません。もう今日は帰っていいですよ」


「相変わらずの気の強さだな。鬼族に生まれ変わってからさらに気性が荒くなったんじゃないか?」


嫉妬されていると思うと嬉しくなった黎は、背を向けている神羅に覆い被さるようにしてそのまま押し倒すと、首筋に唇を這わせてわななかせた。


「お前にはまだまだ分からせてやらないといけない。俺の滾ったこの熱は今となってはお前だけのものだ。覚悟しろ」


お前だけと言われて頬を赤く染めた神羅の指に指を絡めて、飽くことなき衝動に互いに身を委ねた。
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