千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
数時間が経ち、さすがに神羅が音を上げると、黎はくたくたになった神羅を見つめながら脱ぎ散らかした着物を着て神羅を羽織で包んで抱き上げた。


「れ、い…?」


「すまない、衝動が過ぎた。家に連れて行くから休め」


「黎は…帰るのですか…?」


「お前の傍に居るとまた収まった衝動が戻って来そうだから一旦家に帰る」


外に出ると、いつからそこに居たのか――雨竜がうろちょろしていて、目が合うと這って近付いてきたが…急に立ち止まって鎌首をもたげてどこか茫洋としていた。


「雨竜、どうした?」


「良夜…なんか…違う」


「そうだな、少し違うかもしれないが、俺は俺だぞ。嫌か?」


脱皮して随分巨体になった雨竜は金色の目を光らせながら良夜の前まで来て顔を同じ高さまでもってきた。


「ううん、嫌じゃない。ていうかむしろ…好き?」


「そうか、それは良かった。俺もようやく自分らしくなったと思っていたところだ」


「ねえ良夜、なんで美月はへとへとのくたくたなの?」


「卵を産んでもらうために張り切っていたから疲れたんじゃないかな」


「ちょ…っ、変な言い回しはやめて下さい!」


「!美月!良夜の卵産むの!?俺もあっためるから!絶対!」


「俺は一旦ここを離れるから、その間美月を守っていてくれ」


鼻息荒く尻尾を振り回して頷いた雨竜と共に家へ連れて行き、寝かしつけた黎は、少し残念そうに見上げてくる神羅に小さく手を振って笑った。


「またすぐ戻る。それまでゆっくり休め」


「ええ…」


「美月!大丈夫だぞ、俺が居るから!」


張り切る雨竜に後を頼み、その場を離れた。

父たちに事の経緯を話すため、待たせていた狼に乗って屋敷へ戻った。
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