千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
屋敷に戻った黎は、百鬼夜行前に間に合って父たちと対面した。

…父は生前の自分ととてもよく似た顔で、つい小さく笑ってしまうと、定位置だった縁側に共に腰かけた。


「初代様…」


「いや、良夜もしくは明でいい。俺の今の真名は明だからな。…今日まで明として生きてきた。お前たち…いや、親父たちに育ててもらった。そしてこれからも息子と思ってほしい」


それは父にとってとても無理難題だったが、ふたりの母は目を潤ませて黎を取り囲み、少し雰囲気の変わった息子をありとあらゆる角度から見ていた。


「私たちの明…これからもそう思っていいのね?」


「もちろん。俺は親父と母さんたちを選んで産まれてきたんだと思うから。…あと、予定通り代を継ぐ。元は俺が始めたことだからな」


父ははにかみ、言われたとおり普段いつもやっているように黎の肩を抱いて何度も頷いた。


「書物に書かれてあった通り、我々は遺志を受け継ぎ、百鬼夜行を続けてきた。あなたの想いもようやく叶ったのだな」


「美月は俺のかつての妻…神羅だ。共にいつか転生して再び結ばれると約束した。だから妻として迎える。相違ないな?」


「もちろん。俺が否定して家を出て行かれては困る。明日美月殿…いや神羅殿かな、連れて来られるといい。今後はこの屋敷で再びお暮らしに…」


「息子にいつまでもそんな口調で話すつもりか?周りも驚くし、頼むから普通にしていてくれ」


――初代は顔こそ冷淡な造りだが性格は穏やかな一面があり、何物にも好かれると言われていた。

黎はまさにそのもので、笑い声を上げた父は黎の頭をぽんぽんと撫でると立ち上がった。


「俺の代も恙なくお前に引き継ぐことができる。ああ今夜は、いい夜だ」


共に暮れてきた空を見上げて、笑った。
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