千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
黎たちはその後、桂が自死した経緯を口を挟まず最後まで聞いた。
桂もまた人の女を愛してしまい、短い一生でもいいと夫婦になったものの――妻は病に侵されて、ものの数年で死んでしまったと語った桂の目には、涙が浮かんでいた。
自死してしまえば輪廻の輪に加わる順番が遠のいてしまうことは知っていたけれど、いくら時を経ようとも再びまた巡り合えると信じていた、と語った。
黎と神羅はその話を疑わなかった。
自分たちもまた、そう信じて疑わなかったから。
「じゃあ桂…現世でまた出会えるということだな?」
「そう信じています。だから…出会えたら妻はひとりでいいですよね?」
「それはお前の好きなようにするといい。桂…今まで本当に苦しかったな」
百鬼夜行から戻って来る度に、親子三人で様々な話をした。
桂はまだ若く当主の座に就くには早すぎるため、黎はその間に桂を厳しく鍛えた。
記憶が目覚めてからというものの神羅をとても大切にするようになった桂は、前世で神羅の死後すぐ家を飛び出してしまったため、これからは親孝行をしなければと気張ってあれこれ言われるがままに過ごしていた。
黎はそんなふたりを頬を緩めて見ていた。
…澪のことは決して忘れてはいないけれど、愛し方が違う。
澪もそれを分かっていて、黎も澪の寂しさを理解していたため死の直前まで懸命に澪が幸せだと思えるよう努めてきた。
だから…
「黎…どうしたのですか?そんな遠い目をして」
「いや…俺は幸せ者だなと思って」
「そうですよ、お主は妻がふたりも居て、ふたりの子にも恵まれたのですからね。ああ桂、お主の弟が書いた書物があるのです」
「いや、それは桂が当主になってから読ませる」
桂はやいやい言い合いしているふたりに相槌を打ちつつ、縁側にばたんと倒れ込んで笑い声を上げた。
「どちらでも構いませんよ。ああ…幸せだなあ…」
「母もそう思っていますよ…」
「俺もだ。後は…お前が待っている娘が現れるといいな」
誰もがそう思っていた。
そしてその願いが叶う日も、そう遠くはなかった。
桂もまた人の女を愛してしまい、短い一生でもいいと夫婦になったものの――妻は病に侵されて、ものの数年で死んでしまったと語った桂の目には、涙が浮かんでいた。
自死してしまえば輪廻の輪に加わる順番が遠のいてしまうことは知っていたけれど、いくら時を経ようとも再びまた巡り合えると信じていた、と語った。
黎と神羅はその話を疑わなかった。
自分たちもまた、そう信じて疑わなかったから。
「じゃあ桂…現世でまた出会えるということだな?」
「そう信じています。だから…出会えたら妻はひとりでいいですよね?」
「それはお前の好きなようにするといい。桂…今まで本当に苦しかったな」
百鬼夜行から戻って来る度に、親子三人で様々な話をした。
桂はまだ若く当主の座に就くには早すぎるため、黎はその間に桂を厳しく鍛えた。
記憶が目覚めてからというものの神羅をとても大切にするようになった桂は、前世で神羅の死後すぐ家を飛び出してしまったため、これからは親孝行をしなければと気張ってあれこれ言われるがままに過ごしていた。
黎はそんなふたりを頬を緩めて見ていた。
…澪のことは決して忘れてはいないけれど、愛し方が違う。
澪もそれを分かっていて、黎も澪の寂しさを理解していたため死の直前まで懸命に澪が幸せだと思えるよう努めてきた。
だから…
「黎…どうしたのですか?そんな遠い目をして」
「いや…俺は幸せ者だなと思って」
「そうですよ、お主は妻がふたりも居て、ふたりの子にも恵まれたのですからね。ああ桂、お主の弟が書いた書物があるのです」
「いや、それは桂が当主になってから読ませる」
桂はやいやい言い合いしているふたりに相槌を打ちつつ、縁側にばたんと倒れ込んで笑い声を上げた。
「どちらでも構いませんよ。ああ…幸せだなあ…」
「母もそう思っていますよ…」
「俺もだ。後は…お前が待っている娘が現れるといいな」
誰もがそう思っていた。
そしてその願いが叶う日も、そう遠くはなかった。