千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
何かが憑いているといういわくつきの娘が居る家は、伊予では一番大きな鬼族の家だった。
年頃になった桂の元には続々と嫁に貰ってほしいという文が届き続けていたが――その家からは一度も文が来たことはなく、名家なのに何故だろうと思っていた黎は、一緒について行くと言ってきかない雨竜を仕方なく肩に乗せて狼に乗り込んだ。
「恐らくお前と同じくらいの年頃の娘だと思うが…器量が悪いのか今まで縁談の文が来たことはないな」
「何かに憑かれているからじゃないでしょうか。父様の天叢雲ならば身体を傷つけず取り払うことが可能なのでは?」
『貴様…もっと我を褒めろ』
ぐふふと妙な笑い声を上げた天叢雲の鞘を拳で叩いて黙らせた黎は、伊予に向けて出発したものの――神羅が集落が見える度に寄ろうと声をかけてくるため、思いの外時間がかかってしまい、呆れ返っていた。
「美月楽しそう!良夜も美月が楽しいと楽しいだろ?」
「え?ああ…まあ…そうだな」
「桂も危ない時は俺に声をかけるんだぞ。お前がちっちゃな時から俺が守ってきてやったんだから、俺はお前の兄ちゃんなんだからな!」
鼻息荒く兄貴風を吹かせる雨竜は、確かに赤子の頃から桂を守ってきてくれた。
成体になった雨竜はかなり男前だったものの肩がこるからと竜型になることを好み、その姿で威嚇するものだから桂は一度も危険な目に遭うことなくすくすくと育った。
また桂からの信頼も抜群で、満面の笑顔で頷いた桂に雨竜は満足げに尾を振り回した。
「九頭竜は縁結びの象徴だそうだ。お前にもそろそろ縁があるかもしれないな」
「縁ですか。…またあの娘に会えるなら…」
それきり寂しそうに儚く笑んだ息子の頭をぐりぐり撫でた黎は、伊予に着くと早々にいわくつきの娘が住んでいる家へ到着した。
そこには――驚きの出会いが待っていた。
年頃になった桂の元には続々と嫁に貰ってほしいという文が届き続けていたが――その家からは一度も文が来たことはなく、名家なのに何故だろうと思っていた黎は、一緒について行くと言ってきかない雨竜を仕方なく肩に乗せて狼に乗り込んだ。
「恐らくお前と同じくらいの年頃の娘だと思うが…器量が悪いのか今まで縁談の文が来たことはないな」
「何かに憑かれているからじゃないでしょうか。父様の天叢雲ならば身体を傷つけず取り払うことが可能なのでは?」
『貴様…もっと我を褒めろ』
ぐふふと妙な笑い声を上げた天叢雲の鞘を拳で叩いて黙らせた黎は、伊予に向けて出発したものの――神羅が集落が見える度に寄ろうと声をかけてくるため、思いの外時間がかかってしまい、呆れ返っていた。
「美月楽しそう!良夜も美月が楽しいと楽しいだろ?」
「え?ああ…まあ…そうだな」
「桂も危ない時は俺に声をかけるんだぞ。お前がちっちゃな時から俺が守ってきてやったんだから、俺はお前の兄ちゃんなんだからな!」
鼻息荒く兄貴風を吹かせる雨竜は、確かに赤子の頃から桂を守ってきてくれた。
成体になった雨竜はかなり男前だったものの肩がこるからと竜型になることを好み、その姿で威嚇するものだから桂は一度も危険な目に遭うことなくすくすくと育った。
また桂からの信頼も抜群で、満面の笑顔で頷いた桂に雨竜は満足げに尾を振り回した。
「九頭竜は縁結びの象徴だそうだ。お前にもそろそろ縁があるかもしれないな」
「縁ですか。…またあの娘に会えるなら…」
それきり寂しそうに儚く笑んだ息子の頭をぐりぐり撫でた黎は、伊予に着くと早々にいわくつきの娘が住んでいる家へ到着した。
そこには――驚きの出会いが待っていた。