千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
幸せはほどなくして呆気なく終わりを迎えた。
明日香は両親が罹った同じ疫病を発症して村からも隔離された。
伝染病のためそうせざるを得なかったが、妖の桂は人の病に罹ることはないため、懸命に明日香を看病したものの――当時不治の病だったものに打ち勝つことができず、最期に約束を交わした。
「桂…あなたのために子も残せなくてごめんね…」
「いいんだよそんなこと…。明日香…もう…終わりなの?こんなに早く…」
「ふふ…人はあんまり強くないの。でも桂、人は輪廻転生を信じているから、いつかまた生まれ変わってあなたに会えることもあるかもしれないから…」
「いやだ…いやだよ明日香…置いて逝かないで…!」
床に伏して痩せ細った明日香を抱きしめた桂は、弱弱しく背中を撫でた明日香の額に大粒の涙をいくつも落とした。
「私ももっと生きるつもりだったんだけどなあ…ふふ、ごめんね桂。また出会えることを信じているから…私…幸せ…だったよ…。桂…またどこかで…会おう…ね…」
「うん…うん…!必ず見つけてあげるからね…明日香…!」
腕の中で事切れた。
それから一昼夜――明日香を抱きしめて離さなかった桂は、村の皆が伝染病を警戒して外に出ることができなかったため、自分のことだけではなくこれは村の問題だからと明日香を墓に埋葬した。
「…明日香…俺たち鬼族は愛する者を失うと死ぬより苦しい長い生を想い続けて生きていかなきゃいけなくなるんだ。俺はそんなの…耐えられない」
明日香を埋葬した後、その隣に鍬を使ってもうひとつ、事前に穴を掘った。
そうしてふたりで過ごした家に戻り、ひとりぽつんと部屋の中央に座って家から持ち出してきた妖を殺せる小刀を取り出して首筋にあてた。
「自死すると輪廻の輪に加わる機会が遅れる。それでも俺は独りで生きていく覚悟はない。明日香…来世でまた…」
鮮血が迸る。
そして桂は自ら命を絶ち、父や母や味わったであろう苦痛を共有しながら、命を終えた。
明日香は両親が罹った同じ疫病を発症して村からも隔離された。
伝染病のためそうせざるを得なかったが、妖の桂は人の病に罹ることはないため、懸命に明日香を看病したものの――当時不治の病だったものに打ち勝つことができず、最期に約束を交わした。
「桂…あなたのために子も残せなくてごめんね…」
「いいんだよそんなこと…。明日香…もう…終わりなの?こんなに早く…」
「ふふ…人はあんまり強くないの。でも桂、人は輪廻転生を信じているから、いつかまた生まれ変わってあなたに会えることもあるかもしれないから…」
「いやだ…いやだよ明日香…置いて逝かないで…!」
床に伏して痩せ細った明日香を抱きしめた桂は、弱弱しく背中を撫でた明日香の額に大粒の涙をいくつも落とした。
「私ももっと生きるつもりだったんだけどなあ…ふふ、ごめんね桂。また出会えることを信じているから…私…幸せ…だったよ…。桂…またどこかで…会おう…ね…」
「うん…うん…!必ず見つけてあげるからね…明日香…!」
腕の中で事切れた。
それから一昼夜――明日香を抱きしめて離さなかった桂は、村の皆が伝染病を警戒して外に出ることができなかったため、自分のことだけではなくこれは村の問題だからと明日香を墓に埋葬した。
「…明日香…俺たち鬼族は愛する者を失うと死ぬより苦しい長い生を想い続けて生きていかなきゃいけなくなるんだ。俺はそんなの…耐えられない」
明日香を埋葬した後、その隣に鍬を使ってもうひとつ、事前に穴を掘った。
そうしてふたりで過ごした家に戻り、ひとりぽつんと部屋の中央に座って家から持ち出してきた妖を殺せる小刀を取り出して首筋にあてた。
「自死すると輪廻の輪に加わる機会が遅れる。それでも俺は独りで生きていく覚悟はない。明日香…来世でまた…」
鮮血が迸る。
そして桂は自ら命を絶ち、父や母や味わったであろう苦痛を共有しながら、命を終えた。