千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
美月ははじめて百鬼夜行を行う集団を見た。

大小様々で、種族も様々――

但し、縁側で父を皆を眺めている良夜の周囲にだけは獣型の妖たちが足元を埋め尽くしていて、それがなんだかとても微笑ましかった。


「じゃあ明、父は行って来るぞ。ふたりの母たちを頼んだからな」


「ああ。気を付けて」


――明。

良夜という名が真名だとてっきり思い込んでいたが…実際の所良夜の父はふたつの名を気分によって使い分けて呼んでいるため、良夜としては違和感はなかったが…


「お主の真名は…良夜、という名ではないのですね?」


「ん?ああ、違うが、俺としてはどっちでもいい。…真名を呼んでみるか?」


「いいえ結構です。おいそれと真名を口にするわけにはいきませんから。軽々しく真名を口にして命を落とした妖は大勢居ますし」


「ふうん」


興味がなさそうな相槌を打った良夜が肩がくっつくほどぴったり密着して座り直したため、美月は咳ばらいをしてさっと距離を取って座った。


「先程主さまが仰ったように、相談役の私には何者も触れてはいけません。節度を保って下さ…」


「触れてはいけないというのは、抱いてはいけないという意味だろう?この程度で目くじらを立てるな」


「な…っ」


――絶句した美月ににやりと笑いかけた良夜は、これ幸いにとごろんと横になって美月の膝枕にあやかった。

誰にも膝を許したことのなかった美月は、見上げてくる良夜とばっちり目が合って、思わず手で良夜の両目を覆った。


「なんだ、顔が見れない」


「見なくて結構!誰が膝枕をしていいと言いました!?」


「これ位いいじゃないか。早くこの手を外せ」


怒気もなく語気も荒くはなかったが――なんとなく良夜の顔を見たくなって、そろりと手を外した。

切れ長のきれいな黒瞳が真っすぐ見据えてきて言葉に詰まると、良夜が手を伸ばして美月の頬をむにっと引っ張った。


「今夜泊まって行かないか?」


「!け、結構です!いい加減にしないと殴りますよ!」


――怒ってみせたものの良夜はそれを完全に無視してやわらかい太腿に頬ずりをしてぺろっと舌を出して美月をからかった。


「お主と言う男は全く…!」


その後小言が止まらず、良夜はそれを終始笑って聞いて過ごした。
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