千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
美月の右腕にしゅるしゅると絡みついた者を見た良夜は、首を傾げてその顔を覗き込んだ。


「蜥蜴…か?」


「違う!竜だ!」


短い手足に蛇のように長い胴体――長い髭が生えて緑色の鱗で覆われたその生き物は、竜と呼ばれる伝説に近い生き物だった。

この国にも様々な種類の竜が居て傘下にも居るが、その幼子を見たのははじめてだったため、人差し指でちょんと頭を突いた。


「お前…こんなものをどこで拾って来たんだ?」


「私の故郷の深い山の中で行倒れていたんです。何者かに追われていたようで満身創痍でとても見捨てることができませんでしたから」


「そうか。確かにあちこち傷があるな。うちで治してやるぞ」


「治す…?尾が痛いんだ。治してくれ」


あっさりと誘いに乗ってきたため逆に驚いた良夜は、美月の腕にきつく巻き付いているその身体を剥ぎ取って自らの右腕に移すと、優しい手つきで髭を撫でた。


「あっさりついて来るほど尾が痛いんだな?」


「この尾は大きくなったら敵を薙ぎ倒す大切な尾なんだ。お願い、治して」


確かによく見てみると、尾の先端は皮膚が爛れていて痛そうだった。

しくしく泣いて涙を零す雨竜を宥めてやっていると、美月はぽかんと口を開けて茫然としていた。


「この子が私以外の者に懐くなんて…」


「だから言っただろう?俺はこういう妖に好かれるんだ」


良夜が口笛をすぐと間もなくして狼がやって来た。

その巨体に雨竜が怯えたが、狼はふんふんと鼻を鳴らして雨竜の匂いを嗅いでわざと大きな口を開けて見せた。


「こら、怯えさせるな」


「ちっこいな、蜥蜴か?」


「蜥蜴じゃない!竜だ!」


「連れて帰る。お前もついて来るか?」


雨竜の庇護者として離れるわけにはいかずに渋々頷いた美月は、自然に差し伸べられた良夜の手を自然に取って狼の背中に乗り込んだ。


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