千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
空気が冷たくなるほど上空まで狼を駆けさせた良夜は、終始歓声を上げている雨竜に元々潜在的にあった庇護欲をかなり満足させられていた。

九頭竜ともなれば天地を自在に駆けてあらゆる天災をも操れるはずだが――雨竜はどうだろうかと考えるとさらに庇護欲が刺激されて、落ちないように腕に巻き付いていた雨竜の頭を撫でた。


「すごいすごい!俺は父上の背に乗ってこうやって連れて行ったもらったことないから…すごい!高い!」


「俺はお前の頭が例えひとつだったとしても気にしない。だからいずれ俺の仲間になるつもりはないか?」


「?良夜は…仲間を探してるのか?」


「探していると言えばそうなんだが、うちはとある家業をやっていて、大勢の仲間に手伝ってもらっている。お前も見ただろう?うちの庭に居た連中を」


――雨竜は夕暮れ時に良夜の屋敷の庭にわらわら集まっていた連中を思い浮かべてぞっとしてぶるりと震えた。


「仲間…なのか?」


「ああ見えても気のいい連中だぞ。詳しくはまた今度話すが、お前にもあの輪に加わってほしい。居場所がないならお前の居場所になれると思う」


ぽかんとしていた雨竜だったが――今まで命からがら逃げてきた日々を思い出して、今度こそぽろぽろ涙が零れて良夜の膝の上でとぐろを巻いた。


「いい…のかな…父上たちが襲ってきたらどうしよう…」


「九頭竜がどれほどのものか知らないが、うちの家系も九頭竜が派生した頃と同じくらい古い。とにかくお前は心配するな。俺が守ってやる」


「美月は?俺のこと守ってくれて怪我したこともあるんだ。俺のせいで…」


…そんな話は聞いていない。

相変わらず秘密の多い女だなとまた興味をかき立てられた良夜は、途中川に立ち寄って雨竜に魚を食わせると、日向ぼっこをしたりして夕暮れまで過ごして神社に戻った。
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