千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
「なに?九頭竜の起源を知りたい?」
翌朝百鬼夜行から戻って来た父を捕まえて居間の上座に無理矢理座らせた良夜は、こくんと頷いて身を乗り出した。
「鬼頭家と同じくらい古くから存在するもの位しか知らないんだ。九頭竜に関わることになりそうだから知りたい」
「九頭竜は諸説様々あるが、悪神と善神の二種が存在する。頭が九つあるということは股が八つあるということで、八岐大蛇と呼ばれることもあるようだな。人に退治され、己の悪行を悔いて後は善神となったとも言われているが…お前まさか昨日連れて来ていた蛇のような妖は…」
「九頭竜の子なんだ。頭をひとつしか持たなかったため迫害され、命を落としそうなところを美月が救ったらしい。あれの…雨竜が哀れで目をかけてやりたいから、いずれ俺が当主になった時百鬼に…」
「明」
真名を呼ばれて目を上げた良夜は、父が珍しく難しい顔をしているのを見てただ事ではないと思い、背筋を伸ばした。
「九頭竜は鬼族より遥かに強く、悪神の方であれば呪いの術を行使して荒ぶる。呪いを受ければお前は死ぬよりつらい目に遭うかもしれん。それは俺的に…いや、鬼頭家的にまずい」
一子しか恵まれない鬼頭家にとって良夜を失うことは家の存続に関わる。
今すぐ雨竜から手を引いてもらいたいところだが――今まで何にも執着してこなかった良夜が、美月と雨竜にだけは目をかけている。
おいそれと手を引けとは言えず、押し黙って良夜を見つめていると、力と美しさに恵まれた良夜はにっと笑って肩を竦めた。
「やり合うつもりはない。雨竜の親が雨竜を殺しにやって来るなら迎え撃つと言っているだけのこと」
「そうか。気を付けろ明。九頭竜の直系の者の子である場合、幼体から成体に変態する時爆発的な力が影響して暴力的な性格に変わる者が多い。自我を無くし、悪神となった場合…お前が始末することになるぞ」
「あいつは大丈夫だ。じゃあ出かけてくる」
「お前家まで建ててやったらしいな?惚れているのか?」
「さあ…よく分からない」
そう言い残して狼の背に乗って出て行ってしまった良夜を見送った父は、ため息をついて背もたれにもたれ掛かった。
翌朝百鬼夜行から戻って来た父を捕まえて居間の上座に無理矢理座らせた良夜は、こくんと頷いて身を乗り出した。
「鬼頭家と同じくらい古くから存在するもの位しか知らないんだ。九頭竜に関わることになりそうだから知りたい」
「九頭竜は諸説様々あるが、悪神と善神の二種が存在する。頭が九つあるということは股が八つあるということで、八岐大蛇と呼ばれることもあるようだな。人に退治され、己の悪行を悔いて後は善神となったとも言われているが…お前まさか昨日連れて来ていた蛇のような妖は…」
「九頭竜の子なんだ。頭をひとつしか持たなかったため迫害され、命を落としそうなところを美月が救ったらしい。あれの…雨竜が哀れで目をかけてやりたいから、いずれ俺が当主になった時百鬼に…」
「明」
真名を呼ばれて目を上げた良夜は、父が珍しく難しい顔をしているのを見てただ事ではないと思い、背筋を伸ばした。
「九頭竜は鬼族より遥かに強く、悪神の方であれば呪いの術を行使して荒ぶる。呪いを受ければお前は死ぬよりつらい目に遭うかもしれん。それは俺的に…いや、鬼頭家的にまずい」
一子しか恵まれない鬼頭家にとって良夜を失うことは家の存続に関わる。
今すぐ雨竜から手を引いてもらいたいところだが――今まで何にも執着してこなかった良夜が、美月と雨竜にだけは目をかけている。
おいそれと手を引けとは言えず、押し黙って良夜を見つめていると、力と美しさに恵まれた良夜はにっと笑って肩を竦めた。
「やり合うつもりはない。雨竜の親が雨竜を殺しにやって来るなら迎え撃つと言っているだけのこと」
「そうか。気を付けろ明。九頭竜の直系の者の子である場合、幼体から成体に変態する時爆発的な力が影響して暴力的な性格に変わる者が多い。自我を無くし、悪神となった場合…お前が始末することになるぞ」
「あいつは大丈夫だ。じゃあ出かけてくる」
「お前家まで建ててやったらしいな?惚れているのか?」
「さあ…よく分からない」
そう言い残して狼の背に乗って出て行ってしまった良夜を見送った父は、ため息をついて背もたれにもたれ掛かった。