千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
九頭竜の秘密
良夜はその後神社の屋内へ入って九頭竜の成り立ちを美月に聞かせた。
「八岐大蛇…!?伝承では八つの頭に八つの尾と書かれて…」
「字面から見て股が八つあるということは頭が九つ…尾のことは親父は何も言ってなかったが、同種らしい。北の方…つまり高志地方が住処だから…ここまで来るのは大変だっただろう」
美月は良夜に熱い茶を出してやると、切れ長の美しい目を曇らせて顎に手を添えた。
「私の故郷からも少し離れていますが…それはもうひどい有り様でしたから。私が雨竜を見つけた時も小さな蛇のような集団に襲われかけて…」
「お前も怪我をしたと雨竜が言っていたが」
「もう治りましたので大丈夫です」
――女の身で神に等しき存在と対峙するのは足が震えたことだろう。
それを想像すると思わず難しい顔になった良夜が黙り込むと、美月は慌てて饅頭も差し出しながら言い募った。
「大した怪我ではありませんでしたから。それより雨竜の怪我が本当に酷くて…今も完治しないのです」
「それについてはうちの薬を使い続ければ治る。…美月、お前はもう雨竜に関わるな。あいつのことは俺が必ずいいようにする」
かちんときた美月は、懐から扇子を取り出してかなり強めに良夜の肩をぱちんと叩いた。
「私は雨竜の庇護者です。私はなんとしても雨竜を守ると決めました」
「分かった。じゃあ俺がお前も雨竜も守る。だから…お前に俺の真名を教えたい」
え、と声を上げて身を見開いた美月の首に手を回して引き寄せた良夜は――
額に額をこつんと合わせて目を閉じた。
「明、だ」
真名を聞いた途端――美月はぞくりと身体を震わせて、硬直した。
「八岐大蛇…!?伝承では八つの頭に八つの尾と書かれて…」
「字面から見て股が八つあるということは頭が九つ…尾のことは親父は何も言ってなかったが、同種らしい。北の方…つまり高志地方が住処だから…ここまで来るのは大変だっただろう」
美月は良夜に熱い茶を出してやると、切れ長の美しい目を曇らせて顎に手を添えた。
「私の故郷からも少し離れていますが…それはもうひどい有り様でしたから。私が雨竜を見つけた時も小さな蛇のような集団に襲われかけて…」
「お前も怪我をしたと雨竜が言っていたが」
「もう治りましたので大丈夫です」
――女の身で神に等しき存在と対峙するのは足が震えたことだろう。
それを想像すると思わず難しい顔になった良夜が黙り込むと、美月は慌てて饅頭も差し出しながら言い募った。
「大した怪我ではありませんでしたから。それより雨竜の怪我が本当に酷くて…今も完治しないのです」
「それについてはうちの薬を使い続ければ治る。…美月、お前はもう雨竜に関わるな。あいつのことは俺が必ずいいようにする」
かちんときた美月は、懐から扇子を取り出してかなり強めに良夜の肩をぱちんと叩いた。
「私は雨竜の庇護者です。私はなんとしても雨竜を守ると決めました」
「分かった。じゃあ俺がお前も雨竜も守る。だから…お前に俺の真名を教えたい」
え、と声を上げて身を見開いた美月の首に手を回して引き寄せた良夜は――
額に額をこつんと合わせて目を閉じた。
「明、だ」
真名を聞いた途端――美月はぞくりと身体を震わせて、硬直した。