千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
良夜は美月が出してくれた昼餉を食べながらも眠たそうにしていた。

美月は正面に座ってそれを茶を飲みながら見ていたのだが――どうせ夜遊びでもしているのだろうとたかを括って突っ込むことなく部屋中を這い回っている雨竜に目を遣った。


「大きくなったと思いませんか?」


「ああ、だいぶ大きくなった。倍位にはなったな。もう膝には乗らな…」


「乗れるもん!」


無理矢理膝に上がり込んでとぐろを巻いた雨竜は体重も増えていて、箸を置いた良夜はふっと笑って雨竜の首を持って目線でぶら下げた。


「おい、俺にはいいが美月の膝には上がるなよ。骨が折れてしまうかもしれないからな」


「私はそんな軟弱ではありません。鬼族は身体だけは丈夫なのですから平気です」


――美月は何かといっては‟鬼族”という言葉を振りかざす。

よほど鬼族に生まれついたのが誇りなのか、今も胸を張って自慢げにしていた。


「鬼族の女にしては貞操観念が高いな」


「待っている方が居るからです。…どんな方かは分かりませんが…」


「…俺にも探している女が居るが、どんな女かは分からない。でも言っておくが女遊びしない鬼族の男なんて居ないからな」


吐き捨てるように言ってごろんと寝転んだ良夜の身体に無理矢理乗ろうとしている雨竜の胴体を抱き寄せて脇に置いた美月は、今すぐにでも眠ってしまいそうな良夜がやはり気になってぼそりと呟いた。


「女遊びするから眠たいのよ」


「してない。連日親父から色々教え込まれて精神的にくたくたなんだ。…ああいいこと思いついた」


むくりと起き上がった良夜が手をつきながら美月ににじり寄ると、何をされるのかと上体を仰け反らせた美月ににこっと笑顔。


「膝を貸してくれ」


「な…っ、駄目です!」


「後で俺のも貸してやるから」


「結構です!」


しかし、もう後の祭り。

膝に良夜の頭がぽすんと乗ると、美月はため息をついて良夜の額を強めにぱちんと叩いた。
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