千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
狼は狗神の姿でも人型になっても大きすぎて目立つため、神社へ置いて行くことになった。
「ひどいぞ良夜様。何かあったら守れないじゃん」
「何も起きない。お前にも何か食い物を見繕ってきてやるから大人しく待っていろ」
良夜に耳の付け根を撫でられて恍惚としてひっくり返った狼に手を振って長い階段を美月と下りた。
こうして肩を並べて歩いたことはほとんどない。
女慣れしている良夜は美月の歩幅に合わせてゆっくり歩いていたため、小走りにならずに済んだのだが…
「狼という狗神ですが…どこかで見たことがある気がします」
「狼は幽玄町からほとんど出たことがないから気のせいか、あいつの血縁を知っているかだな」
何故か狼にも既視感を覚えていたのだが――とりあえず目下の楽しみは幽玄町の最大の繁華街の散策だ。
まだまともに住人たちと挨拶を交わしていなかった美月は、まごまごしながら隣の良夜を見上げた。
「受け入れて…もらえるでしょうか」
「先代の相談役は爺で町に下りたことがほとんどなかったし、若くて美しい女なら喜んで受け入れるに決まってる」
若くて美しい――
またさりげなく褒められて顔が赤くなりそうになった美月はこほんと咳払いをして巫女装束の長い袖を払った。
「ところで、この籠は何のために?」
「俺と歩くと皆が色々なものを押し付けてくる。あと何か欲しいものがあったら買ってやるから遠慮なく言え」
にこっと笑った良夜が手を伸ばしてきた。
「?この手は?」
「転ぶと危ないから握っていてやる」
「結構です!」
「そうでなくとも繁華街はいつも人で溢れているからはぐれると面倒だ。ほら、早く」
…相変わらず有無を言わさぬ態度に、美月は口を開けたり閉じたりしつつも右手をおずおずと差し出した。
「よし、じゃあ行くか。…お前手が熱いな」
「!気のせいです!」
振り払おうとしてぶんぶん手を振ったがしっかり握られていて外れず、良夜がはははと声を上げて笑った。
その笑顔が可愛くて――気取られないよう怒り顔を作りながら繁華街に向かった。
「ひどいぞ良夜様。何かあったら守れないじゃん」
「何も起きない。お前にも何か食い物を見繕ってきてやるから大人しく待っていろ」
良夜に耳の付け根を撫でられて恍惚としてひっくり返った狼に手を振って長い階段を美月と下りた。
こうして肩を並べて歩いたことはほとんどない。
女慣れしている良夜は美月の歩幅に合わせてゆっくり歩いていたため、小走りにならずに済んだのだが…
「狼という狗神ですが…どこかで見たことがある気がします」
「狼は幽玄町からほとんど出たことがないから気のせいか、あいつの血縁を知っているかだな」
何故か狼にも既視感を覚えていたのだが――とりあえず目下の楽しみは幽玄町の最大の繁華街の散策だ。
まだまともに住人たちと挨拶を交わしていなかった美月は、まごまごしながら隣の良夜を見上げた。
「受け入れて…もらえるでしょうか」
「先代の相談役は爺で町に下りたことがほとんどなかったし、若くて美しい女なら喜んで受け入れるに決まってる」
若くて美しい――
またさりげなく褒められて顔が赤くなりそうになった美月はこほんと咳払いをして巫女装束の長い袖を払った。
「ところで、この籠は何のために?」
「俺と歩くと皆が色々なものを押し付けてくる。あと何か欲しいものがあったら買ってやるから遠慮なく言え」
にこっと笑った良夜が手を伸ばしてきた。
「?この手は?」
「転ぶと危ないから握っていてやる」
「結構です!」
「そうでなくとも繁華街はいつも人で溢れているからはぐれると面倒だ。ほら、早く」
…相変わらず有無を言わさぬ態度に、美月は口を開けたり閉じたりしつつも右手をおずおずと差し出した。
「よし、じゃあ行くか。…お前手が熱いな」
「!気のせいです!」
振り払おうとしてぶんぶん手を振ったがしっかり握られていて外れず、良夜がはははと声を上げて笑った。
その笑顔が可愛くて――気取られないよう怒り顔を作りながら繁華街に向かった。