千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
良夜も同じような夢を見ている――
それはもしかしたら自分が見ている夢と全く同じなのだろうか?
喉から手が出るほど訊いてみたかったけれど、何故か喉に何かが痞えたような感じで言葉が出てこなかった。
そして自らの矜持の高さも災いしていた。
「雨竜には鳥の卵と鶏肉を買ってやった。いや、貰ったのか」
「最近食欲がすごいので喜ぶと思います」
「ちなみにお前にはこれを買った」
帰りの道中、結構鋭角な階段を上りながら良夜が懐から取り出したのは――赤い珊瑚の髪留めだった。
それがとても可愛くて思わず目が輝くと、良夜は足を止めてその髪留めを美月の前髪につけてやった。
「私に…?」
「髪が長いから煩わしいんじゃないかと思って。ん、よく似合ってる」
「あ、あの、ありがたいのですが…私は何のお返しもできませんのでお返しし…」
「俺の厚意だぞ。ありがたく受け取っておけ」
言い方はかなりの俺様だが、自分を思って言ってくれているという気持ちは十分に伝わる。
ぺこりと頭を下げると、良夜はにこり笑って階段を再び上りながら、ぼそり。
「いずれ身体で返してもらう」
「…今…とてもおかしなことを言いませんでした?」
「いや、別におかしなことは言ってない。そろそろ着くぞ」
階段の終わりには雨竜を背に乗せた狼が待っていて、双方尻尾を振りながらうろうろしていた。
釈然としないままの美月が籠から大量の卵と鶏肉の入った籠を見せると、雨竜はちろちろ舌を出して良夜の肩に飛び乗った。
「食べていいの?」
「そのために買ってきた。いや、貰った」
「わあー美味しそう!卵だ!」
「魚しか食ってなかっただろう?もっと大きくなるにはそろそろ違う食べ物も必要だと思ってな。言っておくが人は食うんじゃないぞ」
「分かってる!」
雨竜は美月の前髪で光っている髪留めに目ざとく気付くと、尻尾でちょんと美月の手を突いた。
「可愛いね、どうしたの?」
「あ、あの、これは……ほら雨竜、家で食べましょう。鶏肉を捌いてあげます」
…ああ私ったら満足にお礼も言えないなんて!
――内心自分を責め立てて良夜をちらちら盗み見した。
それはもしかしたら自分が見ている夢と全く同じなのだろうか?
喉から手が出るほど訊いてみたかったけれど、何故か喉に何かが痞えたような感じで言葉が出てこなかった。
そして自らの矜持の高さも災いしていた。
「雨竜には鳥の卵と鶏肉を買ってやった。いや、貰ったのか」
「最近食欲がすごいので喜ぶと思います」
「ちなみにお前にはこれを買った」
帰りの道中、結構鋭角な階段を上りながら良夜が懐から取り出したのは――赤い珊瑚の髪留めだった。
それがとても可愛くて思わず目が輝くと、良夜は足を止めてその髪留めを美月の前髪につけてやった。
「私に…?」
「髪が長いから煩わしいんじゃないかと思って。ん、よく似合ってる」
「あ、あの、ありがたいのですが…私は何のお返しもできませんのでお返しし…」
「俺の厚意だぞ。ありがたく受け取っておけ」
言い方はかなりの俺様だが、自分を思って言ってくれているという気持ちは十分に伝わる。
ぺこりと頭を下げると、良夜はにこり笑って階段を再び上りながら、ぼそり。
「いずれ身体で返してもらう」
「…今…とてもおかしなことを言いませんでした?」
「いや、別におかしなことは言ってない。そろそろ着くぞ」
階段の終わりには雨竜を背に乗せた狼が待っていて、双方尻尾を振りながらうろうろしていた。
釈然としないままの美月が籠から大量の卵と鶏肉の入った籠を見せると、雨竜はちろちろ舌を出して良夜の肩に飛び乗った。
「食べていいの?」
「そのために買ってきた。いや、貰った」
「わあー美味しそう!卵だ!」
「魚しか食ってなかっただろう?もっと大きくなるにはそろそろ違う食べ物も必要だと思ってな。言っておくが人は食うんじゃないぞ」
「分かってる!」
雨竜は美月の前髪で光っている髪留めに目ざとく気付くと、尻尾でちょんと美月の手を突いた。
「可愛いね、どうしたの?」
「あ、あの、これは……ほら雨竜、家で食べましょう。鶏肉を捌いてあげます」
…ああ私ったら満足にお礼も言えないなんて!
――内心自分を責め立てて良夜をちらちら盗み見した。