千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
ほかほかになって風呂から上がった良夜は、台所に立っている美月の後姿を見てついにやけていた。


「良夜、にやにやしてる」


「いや、夫婦生活とはこういうものなのかなと思って」


家を存続させていくためには妻を数人娶り、子を作らなければならない。

好いた女と夫婦になった例はほとんどなく、義務として粛々と続けられている伝統のようなものだ。

父の場合は気が知れて幼馴染だった母と夫婦になったため、好いて夫婦になったのかもしれないが――それでも子を作らなければならず、万が一のためにともうひとり家柄の良い女を嫁に貰った。

しかも百鬼夜行があるため夜は離れ離れだし、日中は使用人が家事をするため母が台所に立つ姿もほとんど見たことがない。


「お前は本当に妖なのか?」


「?そうですけど…何故ですか?」


「料理ができる妖なんて商売をしている連中しか見たことがない。お前は好き好んで料理をしたり食っているようだし」


「物心ついた時からなので…何故なのかなんて考えたことはありません。要らないなら私が食べますから帰っていいですよ」


食卓に料理がずらりと並ぶと、良夜はさっと箸を手ににこっ。

ため息をついた美月はまず雨竜に捌いた鶏肉と卵を食べさせてやると、炊き立ての白米の香しい匂いに目を輝かせている良夜に咳払い。


「どうぞ召し上がれ」


料理に舌鼓を打ち、食事をする習慣がないと言いつつも音を立てず品の良い食べ方をする良夜を食べながら観察。

妖なのに人のように物を食うと終始からかわれながら生きてきたが――良夜と居ると、気兼ねなく食事を楽しむことができた。


「ん、相変わらず美味いな」


「そ、それはどうも」


良夜に褒められると何故か声が上ずってしまい、笑われてぷんぷんしながらふたりできれいに完食した。
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