千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
片づけを終えた美月は、座るなり手に盃を持たされて酒を注がれると、大きめの籠の中でとぐろを巻いて眠ってしまった雨竜に目を細めた。


「それで?雨竜について考えていることとはなんでしょうか?」


「雨竜は高志の出だと言っていたな。あれは確かに頭がひとつしかないし、尾もひとつしかないが…謂われない迫害を受けている。俺は雨竜が成長すれば百鬼に迎え入れるつもりだから、親に挨拶をしておこうと思う」


「え!?で、ですが…雨竜はどうやら直系の子のようですし、お主は鬼頭家の大切なお役目を継ぐ方。何かあれば一大事ですよ」


「許可なく雨竜を迎え入れて後で勝手なことをされては困ると言われるのは嫌なんだ。だからあれを連れて一度高志へ行く。ここは古来からの結界と親父の結界があるから九頭竜とて敵意を持って入っては来れない。だから出向いてやるんだ」


――言っていることは分かるが、危険すぎる。

難しい顔をしている美月を見つつごろんと横になった良夜は、敢えて美月に冷たい態度を取った。


「俺と雨竜と狼で行くから、お前はついて来なくていい」


「……それは駄目です。元々私が雨竜を救ってここまで連れて来たのですから、私にも責任があります。ですので私もついて行きますからね」


内心しめしめと思っていたが、真面目な顔をして頷いた良夜は、頬杖を突きながら目を閉じた。


「親父たちの説得もしないといけないからすぐに出発はしない。雨竜もなんと言うか分からないのもあるが、道中は俺に従ってもらうぞ」


「…ええ、そのつもりです。ですがいざという時は私も戦いますから」


「期待していないが、まあ頑張れ」


…良夜が帰る気配はない。

屋根の上には狼が居たが、帰ろうと説得するつもりもないらしく、美月はうたた寝している良夜のために仕方なく床を敷きに行った。
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