千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
妖は日中眠るのだが、夜に眠ることも多々ある。

強い妖であれば昼夜関係なく活動できるため、良夜は眠たい時に寝るという気まぐれな暮らしをしていた。

また美月も同じように人と触れ合う機会があるようにと日中起きていることが多いため、すやすや寝ている良夜の寝顔を呆れながら見ていたものの――徐々に眠気が襲ってきていた。


「何よ…確かにこの家はお主が建てたんでしょうけど…主人は私なんですからね」


しんと静まり返ったこの家は、とても落ち着く。

良夜の放つ雰囲気もとてもやわらかくて心地よく、座ったままこっくりこっくりしていると――そっと手を握られてはっと目を開けた。


「眠たいのか…」


「い、いえ私はその…寝顔を見ていたわけではなくて…」


「いいから…こっちに来い…」


…口調からして寝ぼけているのか?

良夜が目を閉じたままぐいっと手を引っ張ったため、良夜の身体に倒れ込むと、腰を抱かれて布団の中に引きずり込まれた。


「な…な…っ、男女同衾するべから、ず…っ!」


「うるさい…静かにしろ……」


――それはもう、とても優しくて包み込まれるような抱擁だった。

良夜の胸に顔を押し付けられて最初は硬直して動けなかったものの、風呂上がりの良い香りと良夜の規則正しい寝息がまた睡魔を呼び寄せて、そろそろと顔を上げた。


「良夜様…」


「お前は……温かいな…」


すぐそこに、とても整った形の唇があった。

少し開いた唇はとても色っぽくて、伏せた長いまつ毛も美しくて――男をこんな間近で見たことのない美月が見入っていると、寝ぼけながらも薄目を開けた良夜が顔を近付けて頬にちゅっと口付けをしてきてまた硬直。


「…!」


「知っている…気がする…」


「え…?」


瞼に、頬に、耳に――良夜の唇が触れて、身体がわなないた。


「知っている…絶対に…」


目を見開いた美月の唇に――良夜の唇が優しく重なった。
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