千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
良夜を追い返して雨竜を泉に戻した後――神社でひとり瞑想をしていた。
『ちゃん…神羅ちゃん…』
知らないはずなのに、とても親しみのある声で話しかけてくる女の声。
まだ若くて少し幼さを感じる高い声は、時々鼻を啜りながら何度も何度も、同じ言葉を口にした。
『神羅ちゃん…黎明さんのことは私に任せて。神羅ちゃん、次は…次に生まれ変わる時は、また黎明さんの傍に絶対に居てあげてね…』
――誰?
私は神羅ではないし、黎明という名の男も知らないのに…
どうして私をその名で呼ぶの?
『澪…さん…黎を、お願いね…。黎が…主さまが…悲しまないように…ずっと…傍に…居てあげ、て…』
『神羅ちゃん…神羅ちゃん…!』
ああ、事切れたのか。
かすれてゆく声が胸をかきむしりたくなるほどに切なくて、耳を塞いで身体を丸めた。
「誰なの?神羅って誰?澪って誰?黎明って…誰?」
――鳥の甲高い鳴き声ではっと目が覚めた。
瞑想している間に白昼夢を見ていたらしく、それがあまりにも現実的で、全身に冷や汗をかいていた。
「神羅…黎明…澪…そして……主さま…?」
黎明という名の男は、どうやら黎とも呼ばれているし、主さまとも呼ばれているらしい。
主さまといえば、百鬼夜行を率いる鬼頭家当主の通称名だ。
ますます訳が分からなくなって頭がこんがらがってさっと立ち上がった美月は、井戸まで行って水を汲むと、頭から被って冷静になろうと努めた。
「主さまにお聞きするべきなのかしら…」
だんだん…それもかなり鮮明になってゆく誰かの記憶。
巫女装束を着て神職に就いている風に見えるが実際は神通力は持っていないし、この身に何者かを降ろすこともできない。
だが確実にこの身には異変が起きている。
「私は…私ではないの…?」
そう口にすると怖くて仕方が無くなって、家に戻ると着替えをして布団を被って丸まった。
『ちゃん…神羅ちゃん…』
知らないはずなのに、とても親しみのある声で話しかけてくる女の声。
まだ若くて少し幼さを感じる高い声は、時々鼻を啜りながら何度も何度も、同じ言葉を口にした。
『神羅ちゃん…黎明さんのことは私に任せて。神羅ちゃん、次は…次に生まれ変わる時は、また黎明さんの傍に絶対に居てあげてね…』
――誰?
私は神羅ではないし、黎明という名の男も知らないのに…
どうして私をその名で呼ぶの?
『澪…さん…黎を、お願いね…。黎が…主さまが…悲しまないように…ずっと…傍に…居てあげ、て…』
『神羅ちゃん…神羅ちゃん…!』
ああ、事切れたのか。
かすれてゆく声が胸をかきむしりたくなるほどに切なくて、耳を塞いで身体を丸めた。
「誰なの?神羅って誰?澪って誰?黎明って…誰?」
――鳥の甲高い鳴き声ではっと目が覚めた。
瞑想している間に白昼夢を見ていたらしく、それがあまりにも現実的で、全身に冷や汗をかいていた。
「神羅…黎明…澪…そして……主さま…?」
黎明という名の男は、どうやら黎とも呼ばれているし、主さまとも呼ばれているらしい。
主さまといえば、百鬼夜行を率いる鬼頭家当主の通称名だ。
ますます訳が分からなくなって頭がこんがらがってさっと立ち上がった美月は、井戸まで行って水を汲むと、頭から被って冷静になろうと努めた。
「主さまにお聞きするべきなのかしら…」
だんだん…それもかなり鮮明になってゆく誰かの記憶。
巫女装束を着て神職に就いている風に見えるが実際は神通力は持っていないし、この身に何者かを降ろすこともできない。
だが確実にこの身には異変が起きている。
「私は…私ではないの…?」
そう口にすると怖くて仕方が無くなって、家に戻ると着替えをして布団を被って丸まった。