千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
そうしているうちに――だんだん落ち着きを取り戻していった美月は、息も整い、狭かった視野も正常になっていった。

良夜は美月の脇をひょいと抱えて膝に乗せると、壁にもたれ掛かって身体に布団を掛けてやった。


「その様子だと一睡もしてないだろう。実は俺も屋敷の番をしていたからこれから寝ようと思っていたんだ」


「……一応訊きますが…どこで寝るつもりでした?」


「俺の部屋で」


やっぱりという顔をした美月だったが、良夜の体温と布団の温かさに急激に睡魔が襲ってきて離れ難くなってしまった。


「私ちゃんと…ひとりで寝れますから…」


「今はひとりでいない方がいい。こんな時に手なんか出そうと思ってないから安心しろ」


嘘ではなかったがそう言うと露骨に安心されて良夜が唇を尖らせたが――美月はすうっと寝入ってしまって身体を預けてきた。


「近くで見ても…美しい女だな。それにものすごくしっくりくる」


数多くの女を抱いてきたが、こうして膝に乗せたことは実はない。

何故今までしなかったのか…考えたこともなかったが、美月の細い身体に腕を回して抱き寄せると、今までも何度もこうしてきていた気がして、また既視感に襲われた。


何かに怯えて、不安になって――けれど眠ってしまうとまた妙な夢を見てしまいそうで怖くて眠れなかったのだろう。

頬に触れると季節にしては冷たく、瞼に口付けをして子をあやすようにとんとん背中を叩いてじっとしていた。

美月のやわらかい身体と温もりは良夜にも睡魔を呼び寄せて、この体勢で眠ってしまうと美月に寄りかかってしまうかもしれないと思い立ち、美月を抱き上げて床まで移動してゆっくり横になった。


「叱られてもいいか…なんとか言い訳を考えておかないと」


怒られること前提で熟睡している美月を抱きしめて、眠りに落ちた。
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