千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
優しい夢を見た。
包み込まれるようにして抱きしめられて――
終始顔や身体に触れてくる手の優しさは、まるで壊れ物に触れるかのように優しかった。
至近距離にあるその冷淡に見えるけれど、目の中にたゆたう星のような煌めきと眼差しは愛しさに溢れていて、愛されていると十分に思わせてくれるものだった。
この男が、黎明だろう――
そして自分は多分――神羅という名の女なのだろう。
今までの夢を鑑みればそうとしか有り得ない。
何故その名で呼ばれるのか、何故こんな夢を見るのか分からないけれど、自分はもしかしたら…
この男を、待っているのかもしれない。
「…起きたか」
「……え…えっ?ちょ…何故一緒の床に…!?」
そう問うたものの寝る前の記憶が鮮明に蘇って顔から火が出るほど恥ずかしくなった美月は、腰に回されている手を思いきりつねって離れようとした。
「も、もういいですから離れて…」
「いや、俺はもうちょっと寝るからそのまま動くな」
小さな欠伸をした良夜に身体に埋め込まれるようにして抱きしめられると――黎明という名の男に夢の中で全く同じ抱きしめられ方をしていることに気付いてじっと顔を見つめた。
「視線が痛いな…なんだ?」
「…女と眠る時はいつもこうしているのですか?」
「しない。お前は特別なんだぞ」
そう呟きながら目を閉じた良夜の言葉に特別扱いされているという密かな喜びを感じていると――長い指がつっと肩口をなぞってぞくりとした。
「この噛み跡はなんだ…?」
「…覚えていないのですか?お主が私を噛んだ跡ですが何か?」
すると良夜がぱちりと目を開けて驚いたように少し唇を開くと、その美貌が少し赤くなった。
「噛んだ…?俺が?」
「お主意外誰が居るというのですか。全く…寝ぼけていたので不問にしますが、次はありませんからね」
――鬼族にとって‟噛む”という行為は愛情表現だ。
家族間でも行われず、愛情を感じる特定の者にだけ行われるその行為は特別なもので、それは――
良夜にとって、はじめての行為だった。
包み込まれるようにして抱きしめられて――
終始顔や身体に触れてくる手の優しさは、まるで壊れ物に触れるかのように優しかった。
至近距離にあるその冷淡に見えるけれど、目の中にたゆたう星のような煌めきと眼差しは愛しさに溢れていて、愛されていると十分に思わせてくれるものだった。
この男が、黎明だろう――
そして自分は多分――神羅という名の女なのだろう。
今までの夢を鑑みればそうとしか有り得ない。
何故その名で呼ばれるのか、何故こんな夢を見るのか分からないけれど、自分はもしかしたら…
この男を、待っているのかもしれない。
「…起きたか」
「……え…えっ?ちょ…何故一緒の床に…!?」
そう問うたものの寝る前の記憶が鮮明に蘇って顔から火が出るほど恥ずかしくなった美月は、腰に回されている手を思いきりつねって離れようとした。
「も、もういいですから離れて…」
「いや、俺はもうちょっと寝るからそのまま動くな」
小さな欠伸をした良夜に身体に埋め込まれるようにして抱きしめられると――黎明という名の男に夢の中で全く同じ抱きしめられ方をしていることに気付いてじっと顔を見つめた。
「視線が痛いな…なんだ?」
「…女と眠る時はいつもこうしているのですか?」
「しない。お前は特別なんだぞ」
そう呟きながら目を閉じた良夜の言葉に特別扱いされているという密かな喜びを感じていると――長い指がつっと肩口をなぞってぞくりとした。
「この噛み跡はなんだ…?」
「…覚えていないのですか?お主が私を噛んだ跡ですが何か?」
すると良夜がぱちりと目を開けて驚いたように少し唇を開くと、その美貌が少し赤くなった。
「噛んだ…?俺が?」
「お主意外誰が居るというのですか。全く…寝ぼけていたので不問にしますが、次はありませんからね」
――鬼族にとって‟噛む”という行為は愛情表現だ。
家族間でも行われず、愛情を感じる特定の者にだけ行われるその行為は特別なもので、それは――
良夜にとって、はじめての行為だった。