千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
眠気が吹っ飛んでしまったが――なんとか寝たふりを続けていると、美月がもぞっと身体を動かしてぴったり密着してきた。

何事かとやや身を固くした良夜が目を開けないよう踏ん張っていたのに、美月は少し乱れた胸元に頬を寄せて――頬ずりをしてきた。


「!」


これにはさすがに驚いて目を開けてしまうと、美月とばっちり目が合ってしまって、わなわなされてしまった。


「いや、これは不可抗力だ」


「ね、寝たふりをするなんて…!卑怯ですよ!」


「卑怯も何も俺を襲おうとしたのはそっちじゃないか」


開いた口が塞がらない美月をまたふわりと抱きしめた良夜は、膝に乗せたり噛んだりしたはじめての女が美月であることにもう逃れようのない運命のようなものを感じていた。

文句を言いながらも腕の中でじっとしているのも可愛いし、欲を言えばこのまま抱いてしまいたいと思っているが…勢いでどうこうできる女ではないという確信もある。


「そういえばもう文月になるな。俺の誕生日が近い」


「…え!?文月…だったんですか」


「なんだ、お前もか?何日だ?」


「……棚幡ですけど」


――良夜は思わず目を見開いて白い歯を見せて無邪気に笑った。

これはもう、間違いなく何かが自分たちを引き合わせたのだと思った。


「俺と同じだ。同じ日に産まれるなんて…運命だと思わないか?」


「同じ日…」


今度は美月がはにかむように微笑むと、良夜は腕枕をしてやりながら美月の鼻をちょんと突いた。


「じゃあ棚幡を一緒に過ごそう。屋敷に招待するから」


「で、でも私…主さまたちのような格式ある家の者ではありませんし…」


「気後れするというなら俺がここに来る。どうする?」


――良夜は次期当主だ。

きっと毎年盛大に祝われているはずで、そんな良夜が自分だけと過ごすというのはそれこそなんと思われるか――


「いえ、では…お邪魔します」


「ん。さて、もうちょっと感触を楽しませてくれ」


感触とは何かと言いかけたが、それが密着している自分の胸だと分かると、鳩尾に正拳を食らわせて悶絶させた。


「相変わらず…いい拳だな…」


「調子に乗らないで下さいね」


そう言いつつも、美月もまたこれは僥倖の出会いなのではないかと思い始めていた。
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