千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
良夜が帰った後、美月は泉の前で雨竜に鶏肉を食べさせてやっていた。

最近めっきり食欲が旺盛で、大きな口に肉を入れてやりながらどんな旅になるのか思いを馳せていた。

…先程は少し甘い雰囲気になってしまって危うく身を任せそうになってしまったが…良夜の胸に頬ずりしてしかもそれを本人に知られてしまって顔から火が出るほど恥ずかしかった。

待っている男が居ると言いつつも良夜に惹かれている自分が情けなくてため息をついていると、雨竜が鶏肉を丸呑みして舌をぺろっと出した。


「美月、百鬼ってなんだ?」


「百鬼とは百鬼夜行を行う者の僕となり、共に悪しき者を制裁する者たちの総称です。良夜様はその大事なお役目を行うお家の次期当主ですから、お主が百鬼になった暁には良夜様を全力でお守りするのですよ」


「ふうん…俺が良夜を……ふうん…」


…なんだかとても喜んでいる風の雨竜にまた翌朝来ますと告げて美月が去ると、雨竜は水の中に戻って蛇行してすいすい泳ぎながらにやにやしていた。


「良夜は俺を守ってくれるって言ってたけど…百鬼になるのなら俺が良夜を守らないと」


最近身体が痒くて岩に身体を擦りつけてなんとか凌いでいるのだが、もしかしたらそろそろ脱皮が近いのかもしれない。

脱皮を繰り返すうちに身体が大きくなって力が強まる。

大きくなれば口から炎を吐いたり天災を引き起こしたり、尾のひと振りで敵を薙ぎ倒すこともできるようになる。

出来損ないでなければ、それが九頭竜本来の特性であり、強さだ。


「俺が良夜を守るのかあ…ふふふふふ。あっ、美月のことも守らないと。だって美月は良夜の卵を生むかもしれないから。その時は俺にも卵を温めさせてもらお」


うきうきしながら泉を泳ぎ回り、尾で岩や水を叩く練習をして鍛錬に励んだ。
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