千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
「明…あなた大丈夫?主さまがあんなに取り乱すなんて珍しいことよ」
「俺はなんともないけど…親父は何か知ってる風だ。どうして教えてくれないんだ?」
「私は何も分からないけれど、あなたが心配よ。おかしな夢を見ているんでしょう?」
母は心配性だ。
今でさえ袖を握って離さないのに夢の内容を詳細に語ってしまってはきっとおちおち眠ることもできなくなるだろう。
良夜は母の手をやんわり外すと、父が起きるまでは屋敷の番を務めなければならないため、母の背を優しく押した。
「俺が親父を困らせたみたいだから、傍に居てやってくれ。親父が起きたら出かける。ほら、行って」
母が何度も振り返りながら父の部屋へ消えて行くと、良夜はごろんと寝転がって両手で顔を覆った。
「蔵…?蔵に何かあるのか…?」
蔵へ入ったのかと詰め寄ってきたあの剣幕は異常だった。
幼い頃から蔵だけは絶対に入るなと言われて広大な屋敷の中で出入りを許されない場所のひとつだった。
いつか大きくなった時に入れると宥められ、それが今じゃないのかと思ったが…状況はあまり芳しくない。
「黎明…神羅…」
最近うわ言のようにそう呟いているが、美月にそっくりな神羅という名の女が夢に出て来る度に、今まで感じたことのない淡い感情を美月に抱いてゆく。
「良夜様、沈んでんなー」
「狼か…親父と喧嘩してしまって気まずいんだ。早くここから離れたい」
狗神姿の狼がどすんと座ると前足に顎を乗せて寛いだ。
良夜が縁側から離れてふわふわの身体にもたれ掛かって腕を組むと、狼の尻尾が身体に巻き付いてきて苦笑した。
「俺を慰めてるのか?」
「良夜様はお役目があるから家出したくてもできないもんな。後で息抜きに俺があちこち連れてってやるから元気出して」
「ん。よし、毛を梳いてやる」
「待ってました!」
まだ悶々としてはいたが、腕まくりをして狼の毛を梳きまくって喜ばせた。
「俺はなんともないけど…親父は何か知ってる風だ。どうして教えてくれないんだ?」
「私は何も分からないけれど、あなたが心配よ。おかしな夢を見ているんでしょう?」
母は心配性だ。
今でさえ袖を握って離さないのに夢の内容を詳細に語ってしまってはきっとおちおち眠ることもできなくなるだろう。
良夜は母の手をやんわり外すと、父が起きるまでは屋敷の番を務めなければならないため、母の背を優しく押した。
「俺が親父を困らせたみたいだから、傍に居てやってくれ。親父が起きたら出かける。ほら、行って」
母が何度も振り返りながら父の部屋へ消えて行くと、良夜はごろんと寝転がって両手で顔を覆った。
「蔵…?蔵に何かあるのか…?」
蔵へ入ったのかと詰め寄ってきたあの剣幕は異常だった。
幼い頃から蔵だけは絶対に入るなと言われて広大な屋敷の中で出入りを許されない場所のひとつだった。
いつか大きくなった時に入れると宥められ、それが今じゃないのかと思ったが…状況はあまり芳しくない。
「黎明…神羅…」
最近うわ言のようにそう呟いているが、美月にそっくりな神羅という名の女が夢に出て来る度に、今まで感じたことのない淡い感情を美月に抱いてゆく。
「良夜様、沈んでんなー」
「狼か…親父と喧嘩してしまって気まずいんだ。早くここから離れたい」
狗神姿の狼がどすんと座ると前足に顎を乗せて寛いだ。
良夜が縁側から離れてふわふわの身体にもたれ掛かって腕を組むと、狼の尻尾が身体に巻き付いてきて苦笑した。
「俺を慰めてるのか?」
「良夜様はお役目があるから家出したくてもできないもんな。後で息抜きに俺があちこち連れてってやるから元気出して」
「ん。よし、毛を梳いてやる」
「待ってました!」
まだ悶々としてはいたが、腕まくりをして狼の毛を梳きまくって喜ばせた。