千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
朝起きてすぐ鏡台の前に座った美月は、浴衣をはだけさせて今まで誰にも見せたことのないものを見ていた。


「そういえば、良夜様は何故このことを知っていたのかしら…」


産まれた時から左胸に傷跡のような痣がある。

家族からは唯一の欠点だと言われて、なんとなく自分自身もそれを恥じて隠し続けてきた。

男に肌を見せるのも以ての外で、もちろん良夜にも見せたことはない。


「何故知っていたの…?」


時間も忘れて鏡に映る自身と対峙していると、庭に通じる障子をぽすぽすと叩く音がして開けて見た美月は、そこで鎌首をもたげていた雨竜を見つけて座った。


「会いに来ないから来ちゃった」


「雨竜…もう泉に隠れるのはやめたのですね?」


「うん、だって俺は良夜と美月を守らなきゃいけないから隠れるのはやめたんだ。ねえ見て!」


雨竜を見つけた時は尻尾がとても傷ついていて重傷だった。

だがその尻尾も良夜がくれた薬で完治していて、雨竜が尻尾で転がっていた小石を叩くと木っ端みじんになり、美月は目を丸くした。


「まあ…」


「大きくなったら火も吐けるようになるし、だから美月は安心して卵を生んでね」


誰の、と言いかけると、上空から良夜を乗せた狼が降ってきた。

足音もなく着地して伏せると、雨竜がすぐさま近寄って行って狼の前足に巻き付いてじゃれていた。


「おはようございます。…何やら気難しそうな顔をしていますね」


「ん…ちょっと色々あって大変だった」


優美な目元に苦笑の色が浮かぶと、美月は背筋を正してつんと澄ました。


「聞いてあげてもいいですけど」


「家の問題だから解決したら話す。膝を貸してくれ」


…本当に疲れたような顔をしていた。

仕方なく膝をぽんと叩くと、良夜は美月の膝に頭を預けて横になった。

美月は――おずおずと手を伸ばして良夜の髪を撫でた。

その手触りをずっと前から知っているような気がして、飽きることなく撫でて良夜を癒した。
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