千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
梅雨の時期だというのに棚幡を迎えた朝は快晴だった。
あれから父は無口になり、母たちもそれを心配していたが…良夜は苛立ちを覚えながらも父を信じて急かすことなく待っていた。
夜になれば百鬼夜行に出なくてはならないため、この日は良夜の生誕を祝うために昼頃から百鬼たちが集まり始めていた。
様々な種族が居るため、各々が自分にとっての宝物を持ち寄って代替わりが近く、次期当主の良夜に忠誠を捧げる。
それをありがたく受け取りながら時を過ごしていると、父が起きて来て隣にどすんと座った。
「何か言いたげな顔をずっとしていたのは知っている。お前が相談役を連れてきたら話す」
「じゃあ迎えに行って来る」
手元に置いていた緋色の着物と黄金色の帯を収めた箱を手に狼に乗り込むと、父は腕を組んで苦笑していた。
「お前の相談役に対する入れ込みようは相当なものだな」
「否定はしない。あれは…そこら辺の女とは違う」
また苦笑した父に手を振って神社に向かった良夜は、まず泉で下りてわくわくしながら待っていた雨竜を拾った。
そして狼から下りて参道を歩き、美月の家の前で待っていると、縁側の方の障子が開いて少しだけ美月が顔を出した。
「ほら、持って来たぞ。きっとお前に似合う」
「…ありがとうございます。ちょっと時間がかかりますが…」
「ん、いい。待ってる」
「良夜、俺もついて行っていい?」
「そのつもりで拾って来たんだ。肉を持って来てやった」
肉を食わせてやり、狼の毛を櫛で梳いてやって時間を潰したが…なかなか出て来ない。
女の身支度に時間がかかるのは知っているが――急かそうかと思って玄関の戸を開けようとした時、美月が出て来た。
「……なんだお前…ものすごく化けたな」
「失礼な。私が本気を出せばこんなものです」
瞼には朱色の紅を塗り、きれいに白粉を塗って髪を結い上げた美月の前髪には、良夜が贈った珊瑚の髪飾りが。
思った通り緋色の着物は美月によく似合っていて見惚れていると、じろりと睨まれた。
「よく私の身体の寸法が分かりましたね。ぴったりなんですけど」
「実はあちこち触って測っていた。でも…本当に美しい」
同じ色の下駄も持参していた良夜は、美月の手を取ってそれを履かせてにやつきそうになる顔をなんとか引き締めていた。
「じゃあ行こう」
今日という日を共に祝うために。
あれから父は無口になり、母たちもそれを心配していたが…良夜は苛立ちを覚えながらも父を信じて急かすことなく待っていた。
夜になれば百鬼夜行に出なくてはならないため、この日は良夜の生誕を祝うために昼頃から百鬼たちが集まり始めていた。
様々な種族が居るため、各々が自分にとっての宝物を持ち寄って代替わりが近く、次期当主の良夜に忠誠を捧げる。
それをありがたく受け取りながら時を過ごしていると、父が起きて来て隣にどすんと座った。
「何か言いたげな顔をずっとしていたのは知っている。お前が相談役を連れてきたら話す」
「じゃあ迎えに行って来る」
手元に置いていた緋色の着物と黄金色の帯を収めた箱を手に狼に乗り込むと、父は腕を組んで苦笑していた。
「お前の相談役に対する入れ込みようは相当なものだな」
「否定はしない。あれは…そこら辺の女とは違う」
また苦笑した父に手を振って神社に向かった良夜は、まず泉で下りてわくわくしながら待っていた雨竜を拾った。
そして狼から下りて参道を歩き、美月の家の前で待っていると、縁側の方の障子が開いて少しだけ美月が顔を出した。
「ほら、持って来たぞ。きっとお前に似合う」
「…ありがとうございます。ちょっと時間がかかりますが…」
「ん、いい。待ってる」
「良夜、俺もついて行っていい?」
「そのつもりで拾って来たんだ。肉を持って来てやった」
肉を食わせてやり、狼の毛を櫛で梳いてやって時間を潰したが…なかなか出て来ない。
女の身支度に時間がかかるのは知っているが――急かそうかと思って玄関の戸を開けようとした時、美月が出て来た。
「……なんだお前…ものすごく化けたな」
「失礼な。私が本気を出せばこんなものです」
瞼には朱色の紅を塗り、きれいに白粉を塗って髪を結い上げた美月の前髪には、良夜が贈った珊瑚の髪飾りが。
思った通り緋色の着物は美月によく似合っていて見惚れていると、じろりと睨まれた。
「よく私の身体の寸法が分かりましたね。ぴったりなんですけど」
「実はあちこち触って測っていた。でも…本当に美しい」
同じ色の下駄も持参していた良夜は、美月の手を取ってそれを履かせてにやつきそうになる顔をなんとか引き締めていた。
「じゃあ行こう」
今日という日を共に祝うために。