千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
迫る時はいつも同意など求めてこないくせに、突然良夜がそう訊いてきたため美月は目を見張って寝転んだままの良夜から離れようとした。

だが手を離してもらえず動揺しながらもじっと見つめてくる良夜の麗しい視線から逃れることができないでいた。


「ふ、普段は同意なんて求めてこないくせに…」


「今夜はそういう気分なんだ。…駄目か?」


今夜の宴は元々良夜の生誕を祝う日。

そんな日に手ぶらで来てしまったことを内心悔いていた美月は、そんなことで良夜が喜んでくれるのなら、とじっとり頷いた。


「元々私の経験不足を補うためのものですからね、いいですよ」


「いや、今夜はそういうのじゃなくて…まあいいか。俺の供物になれ」


良夜に腕をぐいっと引かれてよろめいた美月は、視界が突然反転して驚いた。

次に見えたのは良夜の顔で、ここでようやく覆い被さられているのだと分かると、顔から火が出そうになった。


「今日のお前はいつも以上に美しかった。出来るならば俺がお前の着物の帯を外してそして…」


ひそひそと耳元で良夜が自分をどうしたいか囁かれた美月は、それこそ全身熱くなって目を潤ませた。


「な…わ、私の同意なく触れるのはやめて下さいとあれほど言って…っ」


「お前をどうしたいか言っただけで実践はしてない。さあ、その唇頂こうか」


同じように目を潤ませつつも目の中にたゆたう星のような光に魅入られた美月が恥ずかしさでどうにかなりそうになっているうちに、唇が重なった。

それはいつもの強引さが前面に出たものではなく――とても優しい口付けで、とろけるような気分になって目を閉じた。

――美月が心を開くと、良夜は舌を絡めて美月の太腿を抱えて逃げられないようにして何度も何度も唇を重ねた後、首筋に唇を這わせた。


「だ、駄目…!」


「首から上は許可の必要はないはずだが。いいから黙っていろ」


翻弄される。

だが――愛されている、と感じた。

これはただの気まぐれな女遊びではなく、愛されている――

だから、愛されたかった。
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