千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
狼に酒を運ばせた良夜は、それを口実にすっと立ち上がって美月に近付こうとした。
だが美月に鋭い目つきで睨まれてすぐ足が止まり、座り直して一升瓶を揺すって見せた。
「盃はあるか?これは親父の秘蔵の酒なんだ。美味いぞ」
「…自前があります。少しだけ頂きます」
つんつん。
いつも怒っているような口調と態度がどこか懐かしく、全然嫌な気分がしなかった良夜はまた腰を浮かしてじわりと美月ににじり寄った。
「ちょ…それ以上近付かないで下さい」
「そうは言ってもこれじゃ酒が届かない。お前がいいと思う距離まで来い」
「偉そうに…」
美月がため息をつきつつも、両者の中心の位置に置いた一升瓶に手が届くまでの距離まで行って座り直した。
…近くで見れば見るほど美しく、真っ白な襦袢に緋色の袴姿の美月は凛としていて、良夜は頬を緩めて笑った。
「俺をどこかで見たことはないか?」
「ありません」
「俺はお前をどこかで見た気がするんだが」
「私はとても田舎の出なので、お主のような高貴な方が訪れたことはありません」
「どこの出だ?」
「私の田舎に興味がおありですか?何もない所ですがいい所ですよ」
田舎を思い出したのか、美月がふっと笑って表情が和らいだ。
良夜はその隙にまたもそっとにじり寄って一升瓶を差し出した。
「歳は?兄弟は何人居る?父母は健在か?もちろん旦那は居ないな?」
…質問攻め。
ぽかんと口が開いてしまった美月は、盃に注がれた酒をくいっと呷って一気飲みすると、にっこり笑った。
「お主にはなんの関係もないこと。私は皆様のお役に立つべく相談役としてここへ参ったのですから、私個人への質問は…」
「何故巫女装束なんだ?そこに膳があるな…。変わり者だと聞いていたが、お前は人のように食うのか?人は食わないのか?」
――またもやの質問攻め。
呆れた美月は一升瓶を奪い取って自ら手酌すると、問いかけ続けてくる良夜を無視して酒を飲み進めた。
だが美月に鋭い目つきで睨まれてすぐ足が止まり、座り直して一升瓶を揺すって見せた。
「盃はあるか?これは親父の秘蔵の酒なんだ。美味いぞ」
「…自前があります。少しだけ頂きます」
つんつん。
いつも怒っているような口調と態度がどこか懐かしく、全然嫌な気分がしなかった良夜はまた腰を浮かしてじわりと美月ににじり寄った。
「ちょ…それ以上近付かないで下さい」
「そうは言ってもこれじゃ酒が届かない。お前がいいと思う距離まで来い」
「偉そうに…」
美月がため息をつきつつも、両者の中心の位置に置いた一升瓶に手が届くまでの距離まで行って座り直した。
…近くで見れば見るほど美しく、真っ白な襦袢に緋色の袴姿の美月は凛としていて、良夜は頬を緩めて笑った。
「俺をどこかで見たことはないか?」
「ありません」
「俺はお前をどこかで見た気がするんだが」
「私はとても田舎の出なので、お主のような高貴な方が訪れたことはありません」
「どこの出だ?」
「私の田舎に興味がおありですか?何もない所ですがいい所ですよ」
田舎を思い出したのか、美月がふっと笑って表情が和らいだ。
良夜はその隙にまたもそっとにじり寄って一升瓶を差し出した。
「歳は?兄弟は何人居る?父母は健在か?もちろん旦那は居ないな?」
…質問攻め。
ぽかんと口が開いてしまった美月は、盃に注がれた酒をくいっと呷って一気飲みすると、にっこり笑った。
「お主にはなんの関係もないこと。私は皆様のお役に立つべく相談役としてここへ参ったのですから、私個人への質問は…」
「何故巫女装束なんだ?そこに膳があるな…。変わり者だと聞いていたが、お前は人のように食うのか?人は食わないのか?」
――またもやの質問攻め。
呆れた美月は一升瓶を奪い取って自ら手酌すると、問いかけ続けてくる良夜を無視して酒を飲み進めた。