君に心を奪われて
外では雨が降っているのにお母さんが知らせない。今日も中止かな?
下に降りてお母さんに聞くと、あるらしい。
この雨の中で体育祭?無理だよね……?
外に出てもいつものように翼は来ていなかった。きっと翼は団長の仕事で早く行ったんだろう。仕方ないことだ。
雨は上がってきているものの、すごく寒く感じる。
椅子を持ってグラウンドに行くと、地面はドロドロで何も出来ない。
テントの中に椅子を置いて、体育館へ向かった。
体育館で開会式と一斉応援をし、またグラウンドへ向かう。
「花菜、歌うぞ!」
「うん!」
翼と一緒に応援歌の“雨バージョン”を歌う。
「冷たい雨でも輝けよ~♪」
他の軍のところに駆け寄り、翼と一緒に盛り上げる。
翼が雨に濡れて、さらにカッコ良さが増した。
冷たい。晴れてよ。どうか、お願い……。
「あっ!」
私は泥沼化したグラウンドに滑って転んだ。私は泥だらけになってしまった。
「花菜!大丈夫か?」
翼が駆け寄って来てくれた。私は小さく頷いた。
「今日の体育祭は中止です。続きは火曜日か水曜日にやります」
そんなアナウンスが流れて、悲しさが込み上げてきた。
どうして、今年は晴れてくれないの?
暑い暑い炎天下で体育祭をさせてくれないの?
「翼……」
「やりたかったよな。どうして、今年だけ……」
翼も私と同じ気持ちだったようだ。
翼は私の背中をポンポンと軽く叩く。それが心地好く感じた。
その後は学校で着替えて、翼と一緒に家へ帰った。
異例の盛り上がりで楽しかったけど、すごく冷たくて悲しかった。
雨は未だに私達を突き付けてくる。
「次は頑張ろうな、花菜。またな」
「うん、じゃあね」
私達は秘密基地に寄らずに家へ帰った。