君に心を奪われて



外では雨が降っているのにお母さんが知らせない。今日も中止かな?


下に降りてお母さんに聞くと、あるらしい。


この雨の中で体育祭?無理だよね……?


外に出てもいつものように翼は来ていなかった。きっと翼は団長の仕事で早く行ったんだろう。仕方ないことだ。


雨は上がってきているものの、すごく寒く感じる。


椅子を持ってグラウンドに行くと、地面はドロドロで何も出来ない。


テントの中に椅子を置いて、体育館へ向かった。


体育館で開会式と一斉応援をし、またグラウンドへ向かう。


「花菜、歌うぞ!」


「うん!」


翼と一緒に応援歌の“雨バージョン”を歌う。


「冷たい雨でも輝けよ~♪」


他の軍のところに駆け寄り、翼と一緒に盛り上げる。


翼が雨に濡れて、さらにカッコ良さが増した。


冷たい。晴れてよ。どうか、お願い……。


「あっ!」


私は泥沼化したグラウンドに滑って転んだ。私は泥だらけになってしまった。


「花菜!大丈夫か?」


翼が駆け寄って来てくれた。私は小さく頷いた。


「今日の体育祭は中止です。続きは火曜日か水曜日にやります」


そんなアナウンスが流れて、悲しさが込み上げてきた。


どうして、今年は晴れてくれないの?


暑い暑い炎天下で体育祭をさせてくれないの?


「翼……」


「やりたかったよな。どうして、今年だけ……」


翼も私と同じ気持ちだったようだ。


翼は私の背中をポンポンと軽く叩く。それが心地好く感じた。


その後は学校で着替えて、翼と一緒に家へ帰った。


異例の盛り上がりで楽しかったけど、すごく冷たくて悲しかった。


雨は未だに私達を突き付けてくる。


「次は頑張ろうな、花菜。またな」


「うん、じゃあね」


私達は秘密基地に寄らずに家へ帰った。



< 15 / 80 >

この作品をシェア

pagetop