君に心を奪われて
月曜日。本来は体育祭の振替休日だった。どちらにしろ休みなのは変わりはない。
今日も外は大雨。つまらない一日になりそうな気がした。
ベッドでボーと座っていると、電話が鳴った。見ると翼だったのですぐに出た。
「もしもし?」
『花菜。一緒に出掛けない?』
翼とお出かけ?そんな夢みたい話に戸惑う私。
「どこに行くの?」
『カラオケ!スゲー歌いたい気分なんだ!』
翼の元気な声が聞こえて、私は胸を撫で下ろした。すごく愛しい。
「いいよ、行こ!」
『よっしゃ!』
電話の向こうで喜ぶ声がして、つい笑ってしまう。可愛いなぁ。
翼とカラオケ、すごく楽しみだなぁ。
そして、午後一時。約束通りに翼とカラオケに行く。
「花菜!」
傘を持って笑顔で走って来たのは翼だった。
「行こう、花菜」
「うん!」
二人で電車に乗った。翼と距離が近くてすごくドキドキした。私達は無事にカラオケに行けた。
「さて、何を歌おうかな?」
私が何を歌おうか、頭を悩ませていると、翼がタブレットの画面を見せてきた。
「花菜、この曲知ってる?」
「あっ!知ってるよ」
「一緒に歌おう!」
「うん!」
翼と一緒にいろんな歌を歌った。すごくすごく楽しかった。
「マジ最高!FOO!」
翼はカラオケで気分が乗ってきたのか、発狂し始めた。そんな彼を見て、私は笑っていた。
「翼、次はどうする?」
「うーん。じゃあ、これ!」
「ああ、知ってる!」
そんな流れでまた歌う。
翼とのカラオケは最高に楽しかった。ずっと忘れられないよ。
部屋から出ると、若い男性が立っていた。驚いて、少し後ろに下がる。
「あの……〇〇事務所の者なのですが、ここからいい歌声が聞こえたので、歌手になるのはいかがでしょうか?親に相談してからでいいですから、お願いします」
まさかのスカウトに戸惑う私達。
「時間をくれませんか?」
翼が男性に向かってそう言った。
「もちろん、構いません。名刺は渡しておきます」
名刺を渡すと、男性はそそくさと去って行った。
「歌手か……夢だったしな……」
「私も……」
「マジで!?」
私も夢は何だと聞かれると、歌手がすぐに浮かび上がってきたが、夢の話だと思って誤魔化していたのだ。
「まさか、叶う日が近くなるなんて……」
私達は電車に乗り、いつも通りの挨拶で家に帰る。
まだもうしばらくは、この事を秘密にしておこう。
奇跡が起こるまでは――